糖尿病予防から生まれ一般にも利用が拡大

 コロナ下で、サラヤの自然派甘味料「ラカントS」が売り上げを伸ばしている。広報担当者によれば、2020年4~6月の顆粒タイプの売り上げは、対前期比60%増と大幅に拡大した。巣ごもり期間中、料理やお菓子作りの機会が増え、コロナ太りを気にする20~30代の利用が増加したこと、「糖尿病患者が新型コロナに感染すると重症化しやすい」という情報が拡散し、高血糖の人の利用が進んだことが売り上げを押し上げた。さらに、パティシエやトップモデル、アスリートの愛用者が増える中、ダイエット系ユーチューバーが商品を紹介したことで、20代の新規層が増加。利用者数は対前期比40%増を超えたという。

「ラカントS」は、サラヤが開発したウリ科の果実「羅漢果(らかんか)」から抽出される高純度エキスとトウモロコシを発酵させてつくる天然甘味成分「エリスリトール」を原料とする自然派甘味料。羅漢果は、中国桂林にのみ自生し、清朝時代から漢方薬の原料として使われてきたもの。そうした天然素材に対する安心感と糖質ゼロながら砂糖と同じ甘味度に調整された使い勝手の良さが評価され、利用者が増えているのだ。ただし、こうした人気は、一朝一夕で得られたものではない。地道な商品開発と丁寧なコミュニケーションを長年続けた結果が今につながったと言える。

SM・GMS向け商品は、イラストを用いたパッケージデザインで親しみやすさを打ち出した

 サラヤが甘味料の開発に乗り出したのは、1980年代。社会問題化し始めていた糖尿病を予防するため、自然素材を使った砂糖に代わる甘味料の開発を決めたのだ。ただ、素材の選定は容易ではなく、何年も試行錯誤が続いた。羅漢果の研究を始めたのは93年、その2年後にその甘味成分を使った「ラカント」を初めて発売。99年には、砂糖の約300倍の甘さがある「高純度羅漢果エキス」の抽出・精製工程を確立。同時に、桂林のメーカーへの技術指導を始め、安定した生産体制づくりに乗り出した。さらに、03年に「高純度羅漢果エキス」の国内特許も登録。こうして「ラカントS」の商品化に漕ぎ着けたのだ。

「ラカントS」は、糖尿病対策として開発した経緯もあり、発売当初は、糖尿病患者や糖尿病の専門医、管理栄養士などに知られる程度で、販路もドラッグストアや薬局・薬店がほとんどだった。それが広く認知されるようになったのは、糖質の摂取を制限する「ロカボ(低糖質)」の活動がきっかけだ。

 13年に北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟医師を中心に、ゆるやかな糖質制限を推進する「食・楽・健康協会」が設立され、「ロカボ」食品の開発・普及活動が始動。ここにサラヤも参加し、「ロカボ商品」の1つとして「ラカントS」を訴求したことで認知度が高まったのだ。しかし、その背景には、それ以前からターゲット層の拡大と利用を促進する様々な取り組みを進めてきた土台があった。限られた広告費の中で、効果的なメディアの選定やキーオピニオンリーダー(KOL)との関係作り。そしてウェブの活用など。コンテンツの内容や投稿するタイミングなどのデータを細かく解析、修正を繰り返すなど、地道な宣伝活動を推進してきた。また、昨年4月には、SM.GMS向けの顆粒商品のパッケージデザインを、親しみやすいイラストに改め、容量も150gから130gに変更。さらに600g入りのみだった大容量に300g入りを追加し、選択肢を広げた。昨年9月には、液状タイプの「シロップ」をリニューアルしたほか、ドラッグストア向けの顆粒・液状商品のパッケージも刷新。こうした取り組みの結果、商品の認知も高まり、利用者のすそ野が広がっているのだ。

ドラッグストア向けの商品もパッケージを刷新して訴求力を高めた

糖質オフのラインアップを拡充、健康の維持促進に寄与

  サラヤと言えば、「ヤシノミ洗剤」など、洗剤メーカーの印象が強く、実際、1952年の創業以来、石鹸や洗剤、消毒剤など、さまざまな洗浄.消毒剤を開発してきた。その同社が畑違いの食品分野に進出したのは、「社会問題をビジネスで解決する」という理念の実現のため。戦後日本での伝染病予防を目指し、日本初の薬用石鹸液と容器を開発・発売したように、カロリーゼロの甘味料で糖尿病の予防に貢献しようと考えたのだ。
 
 近年、糖質コントロール商品は、糖尿病予防、ダイエットなどを目的に需要が伸びており、サラヤでも、「ラカントS」のほか、「ロカボスタイル」として、「低糖質カフェインレス・カフェオレ」や「同 ミルクティー」など、低糖質商品のラインアップを拡大している。中でも需要が伸びているのが、健康米のパックご飯「へるしごはん」だ。特別品種の高アミロース米と大麦、うるち米をオリジナルブレンドし、白米に比べカロリーを35%、糖質を36%カット。大麦を米粒サイズに削るなど、食べやすさも追求した。これを「ラカントS」と同様にSNSやウェブでレシピを紹介するなどの販促を実施。その結果、「毎年、前年比10%増で成長しており、機能性パックごはんの分野ではトップクラスの成績を誇る商品」(広報担当)になっている。

「へるしごはん」は、糖質やカロリーを抑えただけでなく、食べやすさも追求した

 自然由来の安心感とおいしさを兼ね備えた商品は、開発に時間がかかり、価格も高めだ。しかし、サラヤでは、丁寧なコミュニケーションで品質や価値を伝えることで、安定的に売れる息の長い商品に育ててきた。こうした商品は価格に左右されず、固定ファンも多いことから小売業でも評価が高い。同社では、「ラカントS」や「へるしごはん」を優良顧客の囲い込みにつながる商品として、取り扱い店舗の拡大に向け、導入を促進していく構えだ。