花王は澤田道隆社長(64歳)が2021年1月1日に退任し、後任に長谷部佳宏専務執行役員(60歳)が同日付で社長に就任すると9月に発表した。花王の社長交代は約8年半ぶりで、澤田社長は代表権のない会長となる。長谷部専務は入社直後から澤田社長と部下・後輩の関係で「(澤田社長は)兄貴とも言える方」(長谷部専務)の間柄。同じ研究畑出身者で澤田社長からの信頼も非常に厚い。長谷部専務は研究開発の経験が豊富なことから、花王が持つ技術力を生かし、新製品開発や海外事業を拡大、新規事業の開拓を進めていく。
冒頭、長谷部専務は、「花王は多くの物質とエネルギーを使い、廃棄物を生み出してきましたが、今後は消費しにくいモノづくりに舵を切らなければなりません。数と量の経済から質と絆の経済へシフトする転換点です」と述べた。澤田社長は社長直轄のESG部門を新設し、ESG戦略「キレイライフスタイルプラン」を推し進めてきた。長谷部専務は、この方針を踏襲してESG戦略を一段と強化していくことになる。
今回の社長選任は社外取締役と社外監査役の7名の選任審査委員会が1年間議論を重ねて選出した。選任理由には、研究開発でのリーダーシップ力、技術革新をベースにした先端技術の活用、企業理念「花王ウェイ」に基づく対応の三つを挙げた。例えば、技術力の活用では、人口知能開発のプリファード・ネットワークスと協業し、皮脂から肌状態を解析する取り組みを推進。長谷部専務は、「新事業では衛生環境や病気を防ぐ環境を作る技術で『人の命を守る』という事業領域拡大を目指します」と力を込めた。
また澤田社長はこの8年半で二つの事業で成果を挙げたと述べた。一つ目が紙おむつ「メリーズ」を売り上げ1000億円のブランドへと育成。そして06年に傘下となったカネボウ化粧品と協業し、化粧品事業を立て直したことだ。ただし、「三つ目の新事業領域についてはシーズを作ったが、事業基盤にはいたらなかった。ここはバトンを渡し大きく伸ばしてくれると思う」(澤田社長)と期待を寄せた。食品事業については、澤田社長は「今後も単なる食品事業をやることはなく、免疫力向上や健康を担保する食品分野の観点で扱いたい」と述べた。花王は連結売上高1兆5000億円を超える最大手日用品メーカーとして持続的成長には、新事業開拓と海外売上比率の拡大が待ったなしの状況だ。スピード経営を掲げる長谷部専務の手腕が問われることになりそうだ。
(写真は9月29日の花王本社での社長交代発表会見。左から澤田道隆社長、次期社長の長谷部佳宏専務執行役員)