アマゾンは10月2日、プライム会員向けに新たなショッピング機能「アッド・トゥ・デリバリー(Add to Delivery)」を発表した。ユーザーは、アマゾン・ショッピングアプリまたはモバイル版の「Amazon.com」上で、ワンタップするだけで次回配送に商品を追加できる。アマゾンが掲げる“より直感的で便利な買い物体験”を象徴する機能として注目されている。
思いついた瞬間に「追加」できる
アマゾンによると、「アッド・トゥ・デリバリー」は、ユーザーが注文後に“あ、これも必要だった”と思い出したときに、簡単に追加注文できるよう設計された。対象商品には青色の「Add to Delivery(アッド・トゥ・デリバリー)」ボタンが表示され、タップするだけで次回配送に自動的に組み込まれる。再度チェックアウト画面を経る必要もなく、追加の送料も発生しない。
たとえば、ユーザーが午前中に日用品を注文した後、夕方になって「猫のおやつ」や「読み忘れた本」を思い出した場合でも、配送が確定する前ならボタン一つで同じ便に追加できる。万が一、すぐに取り消したい場合でも「Undo(元に戻す)」を選択すればキャンセルできる仕組みだ。
この新機能は、アマゾンが近年進める「生活リズムに寄り添うEC体験」の一環である。ユーザーの“思い出し購買”という行動パターンを精緻に分析し、買い物の流れそのものを自然な動作に近づけている点が特徴だ。
分断されない買い物体験へ
アマゾンは公式発表の中で、アッド・トゥ・デリバリーは“人々の実際の購買行動に合わせた機能”だと強調している。つまり、「一度に多くを買う」ではなく、「必要なときに一つずつ買う」という、モバイル世代の購買スタイルを前提としている。
これまで、ユーザーが追加で商品を注文する際は、新たにカートに入れてチェックアウトを行い、別配送として扱われるケースが多かった。結果として、複数の配送が発生し、コストや環境負荷の面でも課題があった。
アッド・トゥ・デリバリーはそのプロセスを統合し、ワンタップでの追加を可能にすることで、時間・コスト・エネルギーの浪費を抑える。とくに配送オペレーションの最適化という観点からは、アマゾンの物流効率を高める戦略的意義が大きい。
買い物と物流の統合を進めるアマゾン
この新機能は、単なるUI(ユーザーインターフェース)の改善ではない。アマゾンの広範な配送ネットワークとリアルタイム在庫管理システムが連動してはじめて成立する機能である。
ユーザーが「Add to Delivery」を押すと、AIベースの注文管理システムがそのユーザーの配送予定を即時に照合し、既存の配送便に同梱できるかどうかを判断する。時間的に可能であれば、最寄りのフルフィルメントセンターでピッキングと再梱包が自動的に調整され、同一便での出荷が実現する。
この仕組みは、アマゾンが長年進化させてきた「プライム・ロジスティクス」網の完成度を示すものでもある。特に「サムデー・デリバリー(当日配送)」のようなスピード配送と連動することで、利便性と効率性の両立を図っている。
消費者心理に沿ったUXデザイン
アマゾンは、アッド・トゥ・デリバリーを“人間の記憶と行動の間にあるギャップを埋めるツール”として位置づけている。買い物の途中で思い出したり、家事をしていてふと必要なものを思い出したときに、手間なく操作できる設計は、まさに“思考のリズム”に合わせたUX(ユーザーエクスペリエンス)だ。
また、ユーザーにとって「同じ箱で届く」という視覚的・心理的な一体感も重要である。アマゾンは、これまでの“無限に増える段ボール問題”への対策としても、この仕組みが環境負荷低減に寄与することを示唆している。
アッド・トゥ・デリバリーは現在、米国のプライム会員限定で提供されている。対象商品には青い「Add to Delivery」ボタンが表示され、スマートフォンのアプリまたはモバイルブラウザ上で利用できる。今後の展開地域については未発表だが、アマゾンはプライム・エコシステムの強化施策としてグローバル展開を視野に入れているとみられる。