アマゾンが、物流分野における三つの革新的AI技術を発表した。配送精度の向上、製品需要の予測精度の強化、ロボットによる作業の高度化といった観点から、顧客・従業員・パートナーすべてに実益をもたらすことを企図している。

 アマゾンが公表したAIイノベーションは、①生成AIによるマッピング技術「ウェルスプリング」、②新たな需要予測モデル、③自然言語を理解して行動するエージェントAI、の三つである。

技術①配送先の可視化と最適化

 まず、配送精度の向上を目的として新たな生成AIシステム「ウェルスプリング」を導入した。これは地理座標や過去の配送履歴、衛星画像、建物の形状、道路網、顧客の配達指示、さらにはストリートビュー画像といった数十種類のデータを統合し、配送先の正確な位置情報をAIが自動的に生成・表示するシステムである。

 複数の棟が並ぶ集合住宅や、地図アプリに未掲載の新興住宅街では、配送員が正確な建物・入口・部屋番号を特定するのに苦労することが多い。ウェルスプリングはアパート番号と建物の対応、最適な駐車場所、共用メールルームの場所などを即座に提示し、ドライバーの負担を軽減する。

 昨年10月にアメリカで開始された試験運用では、1.4万の集合住宅群にある約280万件の住所を正確に建物へマッピングし、400万件の住所で最適な駐車位置を特定する成果を上げた。また、過去の配達時に撮影された「配達完了写真」や位置情報も解析対象となり、これにより建物の出入口やメールルームの正確な位置まで特定可能となっている。

技術②商品需要の先読み

 次に注目すべきは、アマゾンが導入したAI需要予測モデルである。これは数億点におよぶ商品の動向をリアルタイムで予測し、「何が・どこで・いつ」必要になるかを高精度で算出する仕組みである。

 従来のモデルは過去の売上データを主に参照していたが、新たなモデルでは気象情報、地域イベント、祝日スケジュールなどの時間的要因も組み込まれており、より動的な判断が可能となっている。

たとえば、夏季のマサチューセッツ州ケープコッドでは日焼け止め、冬季のコロラド州ボルダーではスキーゴーグルといったように、地域ごとのニーズに柔軟に対応できるようになった。

この結果、全国規模の大型セールにおける長期予測の精度が10%向上し、地域単位では20%の精度向上を実現した。適正な在庫配置によって配送距離が短縮され、配送スピードの向上、交通量の削減、そして二酸化炭素排出量の削減にも寄与している。

この技術はアメリカ、カナダ、メキシコ、ブラジルの物流ネットワークですでに導入されており、今後は他地域への展開も見込まれている。

技術③ロボットが言葉を理解する時代へ

 最後は、アマゾン・ロボティクスが手がける「エージェントAI」である。これは、ロボットが人間の自然言語による指示を理解し、それを基に自律的に行動するというもので、アマゾンの物流センターにおける自動化を次のステージへと引き上げる技術である。

 例えば、オペレーターがロボットに対して「左側の黄色いトートボックスの中身をすべて右の灰色のトートに移して」といった日常的な言葉で指示を出すと、ロボットがその内容を正確に理解し、実行することが可能になる。これは視覚と言語を統合した「VLM(ヴィジョン・ランゲージ・モデル)」や、タスク実行を司る行動ポリシーによって実現される。

 すでにアマゾンは自律走行型ロボット「プロテウス」を導入しているが、エージェントAIの進化によって、プロテウスが狭い通路でも大型荷物を運搬できる知能型アシスタントへと進化する見込みである。

 また、ロボットが複数の作業を担うことで従業員の身体的負荷は軽減され、より創造的で問題解決型の業務に集中できるようになる。