全国スーパーマーケット協会が主催する、「S検」(スーパーマーケット検定)の2024年度申し込みが2月に始まった。S検は、スーパーマーケットをはじめとする小売業や、メーカー、卸などの関連事業者の人材育成を支援するべく作られた教育講座だ。特に今年のスーパーマーケット業界では課題に人手不足が挙げられる。一方で業界内では教育制度が十分整っていない企業が散見される。正社員やパート従業員の育成を通じ、人材のレベルアップと組織への定着を図ることがこれまで以上に求められている。全国スーパーマーケット協会は、S検の活用を通じ、企業の人材育成をサポートしていきたい考えだ。

業界における教育支援のスタンダード

 S検は1999年にスタートし、今年で26年目を迎えるオンラインの教育講座だ。厚生労働省が策定した「職業能力評価基準」に準拠しており、企業の人材育成や昇進試験にも広く活用されている。実際、昨年までで全科目累計10万人以上が資格を取得しており、昨年はスーパーマーケットをはじめ、他の小売業やメーカー、卸など、約200社がS検を人材教育に採用している。業界における教育支援のスタンダードと言っていい。

 全国スーパーマーケット協会教育研修課の鈴木志摩子課長は、人材教育の必要性についてこう語る。「スーパーマーケットは足元で人が集まりにくくなっており、他産業より定着率も低い。人手不足の中で、改めて人材育成にどれだけ力を注げるか、従業員にキャリアプランを提示できるかどうかが、人材の定着と企業力の強化の両面にとって重要な課題」と指摘する。

 S検の内容は「小売業全般」「食品表示」「食品安全衛生」の大きく三つに分かれており、資格取得のための「検定」と、知識習得のための「講習」の全16科目が用意されている(表1)。中でも最も多く受講されているのが「小売業全般」だ。スーパーマーケットの一般知識やマネジメントに必要な数値管理などを学ぶことができる。店舗従業員向けのベーシック1級から、売り場チーフ向けのマネジャー3級、店長候補者向けのマネジャー2級、そして商品政策や企業経営に必要な知識が身につくバイヤー級の4つの資格検定を用意。さらにパート・アルバイト従業員や新入社員、スーパーマーケットと取引のある卸やメーカー、店舗設備などの担当者向けに入門講習を、さらに全国スーパーマーケット協会の会員限定で流通用語に特化した入門講習を設けている。

 活用の仕方は企業によって様々だ(表2)。首都圏で約40店舗を展開しているA社は、新入社員にベーシック1級の受講を1回限りで義務付けている。食品表示にも力を入れており、店長や衛生担当、生産管理担当はそれぞれ後述する「食品表示管理士」の初級、中級、上級の取得が必須だ。

 また東北で約40店舗を構えるB社では、資格を取得して申請すれば手当を支給するほか、新入社員はベーシック1級の取得を目指し、正社員は管理職の登用時にマネジャー3級が必要となる。またパートやアルバイトもベーシック1級を取得すると時給がアップするほか、正社員登用の条件にも組み込んでいる。資格の習得を客観的な物差しとして活用しているのだ。

「食品表示管理士」で情報をこまめにキャッチアップ

 次に受講者が多い「食品表示」では、「食品表示管理士」の初級・中級・上級検定を受けられるほか、入門講習、さらに全国スーパーマーケット協会の会員限定で、惣菜・水産・畜産の各部門の「売り場点検講習」も設けている。
食品表示は、記載を誤ればお客の健康被害につながる恐れがあり、企業としての信頼を失うことになりかねない。近年は惣菜などの自社製造商品やメーカーとの直接取引が増えており、小売り側も表示に関する知識を求められるケースが増えている。

 一方で悩ましいのが情報のキャッチアップの難しさだ。20年に食品表示法が施行されたが、以降3年で14もの基準が変更になるなど、頻繁に法律が改正されており、常に正しい情報の収集が求められる。さらに今年4月からは食品添加物の指定などの衛生関連行政が厚生労働省から消費者庁に移管されるなど、さまざまな変化が起きている。食品表示法違反の中には、懲役や罰金などの厳しい直罰規定もあるだけに、蔑ろにすることはできない。

 こうしたリスクを回避し、正確な食品表示を行うための知識を習得できるのが、「食品表示管理士」の資格講座だ。法令や行政の通知文などをわかりやすく、体系立てて学ぶことができ、さらに頻繁に実施される法改正にも対応し、資格取得後、2年に1度の更新制度を導入しており、最新情報を取得することができる。

 協会会員限定の売り場点検講習では、店舗で作成するラベルやPOPの注意点を部門ごとに学ぶことができる。こちらは売り場の従業員が主な対象だ。

 そして3つ目の「食品安全衛生」は、さらに専門的な衛生管理の知識を学ぶことができる。21年に完全施行された改正食品衛生法により、すべての食品事業者は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が義務付けられている。これを踏まえ、必要なHACCP構築スキル、食品の安全基礎知識などを習得できる「食品安全リーダー」の講座と検定試験を設けている。またその前段として、食品安全衛生の入門講習も用意。講習では知識を幅広く簡潔に、食品安全リーダー講座では、現場に即した衛生管理計画の作成や管理を、手順を追って学べる内容となっている。

企業のみならず個人の受講も可能に

 S検は、中身はもちろんのこと、受講・受験環境も、日々忙しいスーパーマーケット業界に対応している。まず受講、受験はすべてオンライン。パソコンやタブレットで場所も時間も問わず受講でき、業務上どうしても外せない日と受講日がかち合ってしまい、受講できないといった心配も不要だ。

 また申し込みから受講、受験、採点、合格証の発行に至るまでもオンライン上で管理しており、従業員の受験履歴や結果もオンライン上で閲覧が可能だ。

 24年度はさらなる要望に対応し、二つのシステム改善を行った。まず個人での受講も可能にしたこと。学生やスキルアップに励みたい個人であっても申し込みを受け付ける。企業側も新規採用者の入社前研修や、社内での自己啓発に活用しやすくなる。もう一つが申し込みと受講期間の延長だ。ともに従来よりも1カ月延長し、通年で受講スケジュールを組みやすくした。

 人材育成は企業の経営基盤強化に直結する重要な戦略だ。給与の引き上げとセットで取り組めば、従業員のモチベーションをさらに引き上げることにもつながるはず。OJTにとどまらない教育のあり方を検討する上で、S検の活用は一つの有効な手立てと言えよう。