調剤併設を進めるドラッグストアが増えている。既存店に調剤薬局を併設する動きが活発化しているほか、調剤薬局チェーンを買収するところも出てきた。一方、調剤薬局も、国の調剤報酬改定で門前薬局・マンツーマン薬局の経営環境が厳しくなる中、コロナ禍での受診控えによる処方箋応需枚数の減少も加わり、将来不安から事業の売却を検討する企業が増加している。調剤薬局のM&Aの現状と成功のポイントについて、豊富な実績を持つM&Aキャピタルパートナーズの土屋淳氏に聞いた。

事業承継を機にM&Aを検討

――調剤薬局業界のM&Aが活 発化しています。その背景を教え てください。

 土屋 調剤薬局は全国に約6万店あると言われ、すでに市場が飽 和状態にあります。また、医療制度改革に伴い調剤報酬の在り方も見直され、制度改定の度に門前薬局、マンツーマン薬局に対する条件が厳しくなってきています。加えて、医薬分業が進んだ1990年代に30代、40代で独立した経営者が60代、70代になり、事業承継を検討する時期を迎えている。こうした状況を背景に、調剤薬局のM&Aが活発に行われるようになったのです。

――買い手はどんなところが多 いのですか。

 土屋 2008年頃から16年頃までは、大手によるM&Aが中心でした。出店ができない中、シェア拡大の戦略としてM&Aを活用 するところが増えたためで、アインホールディングス(HD)などは、店舗数・売り上げの約半分をM&Aで作ってきました。16年以降は、調剤報酬改定で「処方箋受付回数がグループで40万回以下」と決められたことから慎重になった大手に代わり、中堅企業による買収が増加。さらにその後、ドラッグストアや商社、投資会社も参入するようになった。こうして買い手が交代しながら再編が進むことで、買収価格もある程度保たれています。

――売り手側はどうですか。

 土屋 売り手側は、世代交代の時期を迎えたオーナーが中心です。また、成長発展を目指す30~50代のオーナーも多い。事業を承継するにせよ、自身が経営を続けるにせよ、単独で事業を続けるよりどこかと組んだ方がよいと考える経営者が増えているのです。当社のアンケート調査でも、7割以上のオーナーさんが先行きに不安を抱かれ、薬局経営の見直しをされている。事業承継の方法も、4割以上がM&Aを検討されています。

――そんなに多いのですか。

 土屋 はい。とくに危機感が強いのが数店舗から数十店舗、売上高が2億~50億円規模のチェーンのオーナーです。知名度がない分、大手より高い給与で薬剤師を確保しているので、改定で収益性が落ちると経営が厳しくなるためです。一方、50億~100億円以上のクラスでは別の課題があります。門前薬局やマンツーマン薬局の調剤報酬が減る中、事業の在り方を変えなければならない。さらに、処方薬のネット販売への備えも必要になる。アマゾンや楽天が本格参入した場合に対抗できなければ生き残れないと考える方が多いのです。

――なるほど。

 土屋 最近は、これまで動きが少なかった売上高100億円以上の層も動き出しています。500億円以上が動くのはもう少し先でしょうが、この層にはファンドが出資しているところが多いため、M&Aを活用して事業を成長拡大させ企業価値を最大化することに注力しておりますので、5年後にエグジット(売却)された際は、再編も起きるでしょう。調剤薬局業界はコンビニやドラッグストアなどと比べ寡占化が遅れているため、今後、間違いなく再編は進んでいくと考えられます。

調剤買収に関心を持つドラッグストアが増加

 ――ドラッグストアが調剤併設店舗を増やしていますが、それが調剤薬局のM&Aに影響を及ぼしている面もありますか。

 土屋 当社で「事業承継」に関する意識調査を実施したところ、脅威に感じている経営者は多いですね。ドラッグストアは未病、予防、病気、介護、終末医療まで対応でき、さらに薬局運営のノウハ ウも持っているので、商圏が奪われると危機感を抱いています。一方、ドラッグストアは医療のネッ トワークがないので、薬局の買収によりさらなる地域医療の存続・発展のためにヘルスケア領域へ参 入したいと考えるわけです。

 ――御社が手掛けた具体的なM&A事例を教えてください。

 土屋 ココカラファイン(現ココカラファイングループ)によるフタツカHDのM&Aがあります。これは、ドラッグストアによる調剤専門会社買収の最大の事例です。フタツカ薬局は、関西では誰もが知っているブランドで業績も好調、後継者もいると、何も 困ってはいなかった。ただ、今後、息子さんたちの時代を考えた時、調剤報酬への依存を小さくするために、大手ドラッグストアと組んだ方がよいと判断し、経営理念の実現と従業員の幸せのために決断されたのです。

 ――業績が悪いからではなくて。

 土屋 逆です。薬局の業界に限りませんが、業績が悪いとなかなか買い手がつかないことがあります。成長戦略のためのM&Aは、業績好調な時ほど、買い手が見つかりやすく、お相手先の選択肢が広く、冷静に判断できます。

 ――フタツカ薬局は、調剤大手との経営統合は考えなかったのですか。

 土屋 買い手の候補である大手調剤、ドラッグストア、商社、投資会社の全てのメリット・デメ リットを比べた上での選択です。大手薬局は、質の高い薬局運営をしていますが、今後の薬剤師の教育・採用を考え、調剤以外の事業 を抱えるドラッグストアを選んだのです。

 ――調剤薬局は、ドラッグストアを敬遠しがちと聞きます。

 土屋 実はフタツカ薬局も、ドラッグストアと薬局は生業が全然違うと、当初は敬遠されていたのですが、ココカラファインは、塚本厚志社長が薬剤師で、医療に通 じた上でドラッグストアを経営されており、しかも他のドラッグストアとは異なる薬局の在り方を目 指しておられる。そうした点を評価し、決められたのです。

選択肢の一つとしてM&Aを提案

 ――御社が手掛ける案件は、どのくらいの規模が多いのですか。

 土屋 当社が手掛けた調剤薬局のM&A約300社のうち、約50社が売上高10億円以上の会社です。この規模のM&Aでこれだけ実績を持つ同業者はありません。業界知識に加え、買い手ごとのメリット、デメリット、特徴などを掴んでおり、オーナーさんの意向に合う相手とマッチングできる点が当社の強みです。売り手企業とのお付き合いが長い点も特徴で、フタツカ薬局も10年ほどのお付き合いになります。昔からお付き合いがあった経営者の方々が高齢で事業承継を考えるようになったり、経営環境の変化に伴いM&Aを考えたいとお話を頂くケースも あります。私達も、こうしましょうと働きかけるのではなく、あくまでオーナーさんの選択肢の一つとしてM&Aを提案しています。フタツカ薬局も、当初、税制を活用した事業承継を検討されていたのですが、我々が提案した内容を評価され、決断されたのです。

 ――提案を受け、当初とは異なる選択をしたのですね。

 土屋 我々の提案を受け、廃業を見直されたケースもあります。北海道旭川市のフタバ堂というファミリー経営の薬局は、コロナ禍ですでに廃業を決めておられたものの、我々の提案を受け、調剤薬局中堅のマリーングループに事 業を譲渡されました。薬局が廃業すると、患者さんやドクターも新しい薬局を探さなければなりませんが、薬局が少ない地方だと簡単ではない。それを防げた意義は大きいと思います。

 ――M&Aで、売る側、買う側それぞれが重視するのはどんな点ですか。

 土屋 譲渡側のオーナーさんが共通して言われるのは、創業者として従業員とその家族を守りたいということ。あとは、地域のドクターや患者との関係を継続することや経営理念の実現ができること。さらに創業者利益が獲得でき れば、メリットのある話と言えます。一方、買い手側は、集中率を気にされますね。マンツーマン薬局で集中率が85%以上のところは敬遠されがちです。また、売上規模も厳選しており、「1.5億円未満はやらない」と明言すると ころもあります。あとは出店エリアもポイントですね。

 ――双方の利害を一致させるのは難しそうです。

 土屋 そのため、利益相反ではなく、両者が納得する落としどころを探す我々のような仲介会社が重要になります。薬局は成熟産業で市場が限られる上、調剤報酬改定の影響もあります。国は、理想的な薬局の数は4万件弱と考えているので、このまま何もしなければ、淘汰されるか、集約かということになる。その中で事業を残すために、M&Aもぜひ選択肢の一つとして検討していただきたいと思います。

土屋 淳 大手ハウスメーカー入社後、経営者 や資産家等に対し、相続対策や資産運用のための戸建・集合住宅の販売・提案営業に従事した。当社に入社後、2008年からは主に調剤薬局業界のM&Aに従事し、専門部署を立ち上げ、社内最大のチームを率いて業界トップクラスの実績を残す。2022年10月より上席執行役員に就任。

新春特別企画「激流」編集長 × M&Aコンサルタント

オンラインセミナー受講料無料 主催:激流 協賛:M&Aキャピタルパートナーズ 

小売業界の新時代における経営戦略とは? 

ウクライナ危機に端を発した原材料価格やエネルギー価格の高騰、急速な円安などで経営環境が大きく変わった2022年の小売業界。2022年に引き続き2023年もコストプッシュインフレの基調は変わらず、加えてポストコロナの消費動向の変化により、消費は小売業界から、外食業界、観光業界に移行していくことが予測される。このような急激な社会の変化に対して、食品スーパー・ドラッグストア・調剤薬局が今後どのように対応していかなければならないのか。経営環境激変による再編・淘汰が予測されるなかで、事業を継続・発展させるための経営戦略についてお話させていただきます。

開催概要

開催情報

(1)オンライン配信 

https://www.ma-cp.com/about/seminar/20230125/

2023年1月25日(水)15:00~16:00
(2)録画配信
配信期間 2023年1月26日(木)10:00~1月31日(火)23:59まで
※後日、オンライン配信の映像をお送りいたします

セミナー内容
  • 2022年振り返りと2023年展望
  • 各業態の勝ちパターン
  • 時代にマッチした商売とは
  • 競争激化の中での経営戦略への提言
対象
  • M&Aに興味をお持ちの企業の経営者・経営幹部・その経営支援者の方
  • 後継者不在など、事業承継に関するお悩みをお持ちの経営者・経営幹部・その経営支援者
受講費 無料
定員 100名
視聴環境 本セミナーではZOOMの使用を予定しております。詳細はZOOMサポートをご確認ください。
申込方法 下記、申込フォームよりお申込みください。
セミナー開催までに、順次お申込みいただいたメールアドレス宛にセミナー視聴用URLをお送りいたします。
プログラム 15:00~開会アナウンス
15:02~対談
16:00 セミナー終了