原材料・エネルギー価格の高騰の影響は、小売業の店舗開発にも及んでいる。鉄骨やボルトなどの資材が高騰し、小売業からは「これまでのペースで出店できるかどうか難しくなってきた」との声が上がっているのだ。こうした事態に対し、ハウスメーカーのポラスグループが提案するのが新たな工法を用いた木造店舗だ。従来の工法を見直すことで鉄骨造よりもコストを抑制。さらにCO₂排出量も大幅に少なく、脱炭素社会の実現にも貢献する。今後の店舗開発の新たな手法として脚光を浴びそうだ。

「MPブレースシート」で木造店舗の標準型を実現

 ポラスグループ ポラテックが提案するのは、グループ会社のポラス暮し研究所が総合建材メーカー文化シヤッター子会社の建材金物メーカーBXカネシンと共同開発した補強金物「MPブレースシート」を活用した「木造店舗建築物の標準型」だ。

 MPブレースシートとは、天井に鉄筋のブレース(四角形に組まれた骨組みに対角線状に入れた補強材)を留めつけることで、高強度な水平方向の平面骨組を構成できる金物。木造建築でも特殊な施工技術が不要で簡単に施工でき、中間に支柱や支壁を設けることなく、最大8mの大スパン構面を実現する。

 現在、第1号受注案件であるさいたま市の公民館を建築中だ。これを皮切りに、ポラスグループはこれまでなかった店舗建築物の木造標準型の提案を推進していく構え。9月20日、同公民館で行われた報道向け現場見学会で、特販部の篠田和弘部長は「MPブレースシートを使った小売店や飲食店、倉庫などの木造建築を提案していきたい」と意気込みを語った。

公民館の建設で使用されているMPブレースシート
MPブレースシートを使用することで、木造建築物で支柱や梁を使うことなく大空間を実現する

木材利用でCO₂排出を抑制、企業価値向上にもつながる

 ポラテックがMPブレースシートを活用した中大規模建築物の木造化に取り組む背景にあるのが、SDGsや脱炭素社会の実現に向けた意識の高まりだ。2010年に「公共建築物等木材利用促進法」が制定され、学校や地域の集会所などの公共建築物では木材の利用が進められてきた。さらに21年6月には、50年のカーボンニュートラル実現に向け、森林資源の循環利用を推進する「改正木材利用促進法」が成立。同年10月に施行され、民間建築物の木造化を後押しする動きが強まっている。

 例えば、不動産開発大手のヒューリックが開発した東京・銀座の木造ビルに米アップルの直営店「アップルストア」が入居。大林組がオーストラリア・シドニーで世界一高い木造ビルの建設に着手するなど、大手企業の木材活用が話題になっている。暮し研究所の照井清貴グループ長は、「建物や店舗の木造化で企業価値向上に努める企業が増えている」と指摘する。

 脱炭素社会に向けて木材の利用が求められているのは、木が持続可能な資材だからだ。伐採、植樹、育成の森林の循環サイクルで成長するため、再生産ができる。成長過程でCO₂を吸収するため、木造住宅は鉄骨造や鉄筋コンクリート造と比べて炭素を約4倍貯蔵でき、材料製造時のCO₂排出量も大幅に少ないという特徴がある。さらに、技術の発展により、耐久性も鉄骨や鉄筋コンクリートと遜色ないレベルまで向上しているのだ。

脱炭素社会の実現に向けて木材の利用が求められている
木造住宅の炭素貯蔵量は鉄骨造や鉄筋コンクリート造の約4倍だ

 だが、中大規模建築物は木造の「標準」がないことから、住宅規模で標準の柱や梁の配置間隔・かけ方で構成されている。このため、一般住宅の標準構造をスケールアップした構造となっており、梁を支える柱が必要で、空間が細かく仕切られてしまう。

 この構造は保育園や老人ホーム、医療施設など個室を備えた施設には適しているが、大きな空間を必要とするドラッグストアやコンビニの小売店舗や飲食店舗などの建物では価格が高い特殊材を使い、横揺れによる歪みを防ぐ合板とそれを支える梁も必要になる。この結果、従来の木造工法だと、コストはドラッグストア規模で鉄骨造の1.5倍、コンビニ規模では1.1倍と高くなり、木造への切り替えを提案する上で大きな支障となっていた。

ドラッグストアは14%、コンビニは47%もコストカットになる

 これに対し、MPブレースシートを活用した標準型では、合板や梁を使用せずに高耐力の構面を実現し、大空間と低コストの両立が実現できる。MPブレースシートを使えば標準的なドラッグストアは鉄骨造より14%、コンビニなら47%コストを削減できる。「小規模な3階建ての事務所も鉄骨造より安くなるという試算もある」(照井グループ長)という。

 この新提案とともに、BXカネシンでは鉄骨造設計者が木造への切り替えを検討しやすい環境を整備。同社のホームページで設計や積算などの各種支援ツールを無償で提供する。照井グループ長は、「脱炭素社会の実現に向けて、店舗建物の木造化で小売業や飲食業の企業価値向上をお手伝いしたい」と意欲を示す。

 ポラスグループには、国土交通省が優秀な技術者を表彰する「優秀施工者国土交通大臣顕彰」を受けた大工が11名在籍。技能五輪の金賞や銀賞を受賞する「ポラス建築技術訓練校」の卒業生も多くいるほか、大手ゼネコンに出向して経験を積んできた大型木造施設の11名の現場監督もいるなど、木造に精通した人材が豊富だ。篠田部長は「木造の施工に自信を持っており、木造ゼネコンを目指して取り組んでいきたい」と力を込める。ポラテックは小売業や飲食業、倉庫など、店舗・建物の木造化を後押しすることで、低コスト化と脱炭素社会の実現の両方に取り組んでいく。