ハウスメーカーのポラスグループが木造店舗の提案を一段と強化している。その代表的な取り組みが、総合住宅展示場「体感すまいパーク柏」(千葉県柏市)に4月29日新設された「柏ウッドテラス」だ。「本体工事費は1坪当たり税抜き110万円」(ポラテックの橋本裕一取締役木造建築事業部長)というこだわりの柏ウッドテラスは大型の木造建築で、ここに使われた技術力を住宅だけでなく、ドラッグストアや道の駅など木造事務所・店舗のモデルルームとしても積極的に活用していく方針だ。

木造住宅の工法で事務所建築も可能に

 地上2階建ての柏ウッドテラスは、延べ床面積が265坪と広大。これほど大規模な木造建物を建築する場合、木材の板の繊維方向を何枚も交差させて重ねた大きな断面の板材料を使用する「CLT工法」で施工するのが一般的だ。CLT工法は高強度がメリットだが、コストが高いうえに、経験を持つ建築工や施工会社が少なくなるという課題がある。そこで柏ウッドテラスはCLT工法を採用せず、通常の木造建築の材料のみを使用し、従来の柱に梁を組み合わせて建てる「軸組工法」で建てられた。

体感すまいパーク柏に新設された柏ウッドテラス
橋本裕一取締役木造建築事業部長

 これが可能になったのは、ポラスグループが建築に必要な木材を工場で事前に加工する「プレカット」の生産量日本一を誇る実績を持っているからだ。柏ウッドテラスは、プレカットされた木材を現場で組み立てまで行う工法を採用。コンピューター制御による加工で手加工よりも精度が約1.5倍高く、特殊な加工が不要なことから、住宅建築が専門の大工が柏ウッドテラスの施工も行える。柱と梁の接合にはオリジナル金物接合「Bロック接合金物」を使用することで強度を確保したほか、大きなガラス面を支えるためにポラスオリジナルの耐力壁「ユニ・バー」を使用した。

オリジナルの耐力壁「ユニ・バー」を使用し、大きなガラス面を支える

 一方で、オリジナルの計算ソフトを使って、建物だけでなく基礎部分も合わせた全体の構造を計算し、基礎梁が少ない量でも高い安全性を担保した設計にすることで、コスト抑制も図っている。この結果、「一般の事務所建築よりも短い工期」(石井幸佑特販部法人企画設計室主任)を実現し、着工から5カ月で完成した。

 また、窓ガラスの取り付けにも特徴がある。柏ウッドテラスは1階と2階とも、排煙用の窓も含めて高さ3mのガラス窓を設置している。このためビル用サッシを使う必要があるが、木造は鉄骨造と異なり取り付けには一工夫が必要となる。ポラテックは建材メーカーのYKKAPに木造に取り付けしやすいビル用サッシを特注。この結果、木造建築でもビル用サッシを取り付けることができた。

 さらに、防音性の面の課題も解決した。柏ウッドテラスは線路脇に建てられているため、建物のそばを行き交う電車の騒音や振動が大きいことから、線路側には厚さ8mmの窓ガラスを使用。備え付けるサッシの内部には「レゾネーター」というプラスチック製吸音装置を装着したほか、壁に防音シートを張るなど、電車が高速で通過しても振動を抑えられるよう防音を徹底した。石井主任は「天井や床も木にこだわり、外を歩いている人も柏ウッドテラスが木造建物であることがわかるデザインを目指した」と語る。ポラスグループの技術力の高さにより、こうしたこだわりも実現している。

線路側には厚さ8mmの窓ガラスを使用している

総合住宅展示場内にアフターサービス拠点を併設

 ポラテックではこれら木造建築の技術を、ドラッグストアや道の駅などに積極的に提案していきたい考えだ。小売業の中でもドラッグストアの出店意欲はまだまだ旺盛。一方で建築資材は近年高止まりを見せており、木造建築のコスト面や環境負荷低減のメリットを訴求することで、需要の取り込みを狙う。

 木造建築のメリットはまだ認知が十分とはいえない。実際には非住宅分野においても、SDGs意識の高まりなどで、事務所建築などでも鉄骨造り、あるいは鉄筋コンクリート造から木造に移行しつつある。例えば、木とコンクリートの比重は1:5と木の方が圧倒的に軽い。また火事の際に鉄筋コンクリート造りでも燃えること、木の製材の方が鉄をつくるよりもCO2消費量が少ないこと、基礎工事のコストは木造の方が安いこと、固定資産税が低いことなどメリットは多岐にわたる。

 そうしたメリットを訴求する場として、ポラテックは柏ウッドテラスを活用していく。老人ホームや障害者施設、保育園などを手がける設計事務所への理解浸透も図っていきたい考えで、清水靖昌特販部木建推進課係長は「実際、柏ウッドテラス竣工後に事業者や設計事務所の関係者を招待したところ、多くの質問が寄せられた」と手応えを得ている。

 柏ウッドテラス開設で強化したいのがサービス力だ。柏ウッドテラスでは1階に商談ルームを設置し、2階にはアフターサービスを手がけるグループ企業「住宅品質保証」のオフィスを併設した。橋本取締役は「新築販売と同時にアフターフォローができる拠点があるのは営業一人ひとりにとって大きな強みになる」と期待を込める。ポラスグループは技術を実際に見てもらい、体感してもらうことで、新たな需要を取り込んでいきたい考えだ。

1階に設けられた商談スペース