アプリで産地と買い手をつなぐ

 地方から日本の水産流通を変革しようとしているベンチャー企業がある。広島県で2016年に起業した「UUUO(ウーオ)」だ。

 ウーオが手掛けるのは、自社アプリ「産直鮮魚マーケットプレイス」。これで漁港などの産地と小売りのバイヤーなどをマッチングする。アプリ上には毎日、ウーオと提携する全国100以上の漁港から、その日水揚げされた魚種が出品される。小売りのバイヤーや飲食店、荷受け、仲卸はその情報を見て注文するだけでいい。

 各産地市場の水揚げ魚種や数量がリアルタイムに分かるので、相場の予想に活用したり、その日の仕入れに生かしたりすることもできる。気になる魚種は「フォロー」することで情報がいち早く通知されるほか、その場で産地への問い合わせも可能。魚の漁法や締め方、水揚げ日、届け日などの内容は、アプリの詳細ページを見るだけで確認できる仕様になっている。

アプリを介して産地と買い手をつなぐ

 ウーオが目指すのは、オープンな水産流通だ。現状の流通は「魚を買い付けようと思っても、知っている産地、つながっている業者からしか買えない構造になってしまっている」と万力悠人専務取締役COOは指摘する。たとえば、いつも買い付けている港の水揚げが少なく、その隣の港では水揚げが多かったとしても、隣の港の状況が可視化されていないため、買い付けることができない。

 水揚げが〝ブラックボックス化〟している理由は、電話やFAXなどのアナログな伝達手段を用いていること、そして伝達する情報規格そのものが港ごとにバラバラであることなどにも起因している。後者であれば、仕様書のフォーマットが港ごとに異なり、水揚げ量も箱単位、キロ単位と様々。共通規格が存在しておらず、データの蓄積にも向いていない。

 そこにウーオがアプリを通じて介在することで、産地は販路を拡大でき、小売りは市場以外に産地から鮮度の高い魚を仕入れることができる。産地が発送する魚は基本的にその日水揚げされたもので、大部分の魚は発注の翌日には届く。食品スーパー側が、旗艦店向けに珍しい魚を一ケースだけ仕入れたいといった要望への対応も可能だ。逆に大手スーパーのような量が多い企業向けには、オフラインでウーオが注文量を聞き、産地に呼びかけて物量をまとめることもしている。

酒を酌み交わしながら産地と思いを共有

 ウーオの創業は、衰退する地方漁港の活性化が起点となっている。

 板倉一智社長は、鳥取県の出身だ。実家近くに港があり、年々衰退を目の当たりにする中で、新たな水産流通をつくろうと決意。そのためにはまず現状を知ろうと、鳥取県の二つの港の買参権を取得。競りで魚を買い付け、市場や卸、仲卸、スーパーなどに産直で魚を届けるサービスからスタートさせた。

 スーパー側から「買い付ける産地をもっと増やしてほしい」との要望を受け、西日本から徐々に全国の産地に提携先を拡大。合わせてアプリを立ち上げ、自身が競りに参加するのではなく、競りを行っている漁業協同組合や仲買企業などとパートナーシップを結ぶことで、ウーオ自身はアプリによるマッチングのコーディネーターに特化していった。

 ただここまでこぎつけるのも簡単ではなかったという。特に時間を要したのが産地開拓だ。現在の100以上の漁港とのつながりは、「2~3年をかけてメンバーが産地に足繁く通い、ときには酒を酌み交わしながら思いを共有していった」(万力COO)。産地が増えたことで、食品スーパー側の利用も増加。今では1日に約500ケースが流通している。1ケースあたりの量は5kgのものもあれば10kgのものもあり様々だが、ケース量は昨年の倍近くまで増加。利用しているスーパーも中小から大手まで様々だ。

「ここで買えば間違いない」売り場展開を支援

 ウーオの役目はマッチングにとどまらない。消費者に鮮度の高い魚とともに、情報を伝えることも重要な使命と考えている。ウーオが扱う魚は、ハマチのような大衆魚もあれば、チカメキントキのようなあまり見かけないものもある。そういった魚はお客から「これどうやって食べるの」と聞かれることが多いことから、魚の情報やレシピを産地に聞いたり、自分たちで考案しながら提供している。

 さらにスーパーの店頭でウーオの魚だけを並べた売り場展開にも取り組んでいる。産直の魚だけを集めた売り場を作ることで、「ここで買っておけば魚は間違いない」とお客に認知してもらい、店側の差別化の武器としてもらうためだ。

ウーオの魚だけを集めた売り場展開にも力を入れる(愛知県のスーパーヤオスズ)

 今後の課題はウーオの価値をスーパー側に伝え、いかに利用を増やしていけるか。「魚で差別化を図りたいというスーパーさんはまだまだ多い。そうした皆さんと一緒になって、消費者にもっと食べてもらうための食べ方提案や加工方法にも踏み込んでいきたい」と万力COOは意気込む。鮮度の高い魚を届け、ダウントレンドの現状を打破していきたい考えだ。