新しい客層を獲得、空前の好業績に湧いた

 2020年、新型コロナウイルスショックが世界を揺るがしたこの年、日本のホームセンター(HC)は記録的な好況に潤った。

 コロナウイルスの感染拡大によって、最初にトイレットペーパー・ティッシュペーパーが売れ始め、続いてマスクや除菌用品などの感染対策商品が爆発的に売れた。緊急事態宣言下では、「ステイホーム」「リモートワーク」によって自宅で過ごす時間が増え、家の中のことに改めて目が向けられて、DIY用品、園芸用品などのHC商品の需要が急増した。掃除や料理などの家事も見直されるようになり、家庭用品も好調に推移した。さらには近場で「密」にならずに楽しめるキャンプやアウトドアが人気となり、アウトドア・レジャー用品も順調な伸びを示した。

 2~3月期決算の上場企業の中間決算では、対象となる12社全社が全利益項目で増収増益。しかも桁外れの伸び率をはじき出した。売上高は、コーナン商事の前期比24.4%増を筆頭に、12社中9社が2桁の伸び。平均でも12.89%の増加だった。

 同時期の中間決算ではスーパーマーケット(SM)も好業績だったが、SMが客数を減らしながら客単価を伸ばして売上高を増やしているのに対して、HCは客数そのものが伸びている。これは、これまでHCに来店していなかった新しい客層を獲得したことを示している。

 またドラッグストアは好不調企業の明暗が分かれたが、これは主に、郊外型店舗が好調で、都市型店舗が不振だったことによる。その点、ほとんどの店舗が郊外に位置しているHCは、立地条件でも優位に立った。インバウンド需要の消失も、HCには無関係だった。

 コロナウイルス問題の影響に加えて、20年は気候も比較的安定的に推移、HCに味方した。夏は猛暑となり、HCの業績を左右する季節関連商品もよく売れた。

 既存店売上高伸び率の平均を見ても、5月12.2%、6月17.4%、7月11.5%、8月16.0%と、春から夏に掛けて2桁で推移した。

 大手を中心に粗利益率も向上した。DCMホールディングス(HD)が0.8ポイントプラスの33.6%、コーナン商事が1.1ポイントプラスの38.1%、コメリが1.5ポイントプラスの33.5%、ナフコが2.1ポイントプラスの34.8%だった。高粗利益率のDIYや園芸用品の売上構成比が向上したことと、PBの売上構成比が拡大したことが影響した。

 その一方で販管費は、粗利益高に比べて大きく増えなかっただけでなく、「密」の状況を避けるためにチラシの配布をやめたり減らしたりした企業が多く、比較的抑制することができた。

 この結果、営業利益は、ジュンテンドーの前期比342.9%増を筆頭に、各社とも驚異的な伸びを示した。100%以上増やした企業が6社あり、業績が安定している上位3社も、DCMHD75.9%増、コーナン商事84.0%増、コメリ62.2%増だった。平均値でも155.53%増。すなわち前年の2.5倍以上と、かつてないほどの伸長率となった。半年間で前期1年分以上の営業利益を稼いだ企業も少なくなかった。  経常利益も同様で、平均値で197.33%増だった。当期純利益もまた同様で、平均値で181.13%増だった。

2件の大型M&Aが業界に与える影響

 20年のHC業界にはもう一つ大きなニュースがあった。久し振りの大型M&Aが2件報じられたのだ。

 一つはアークランドサカモトによるLIXILビバの完全子会社化だ。6-7月にTOBを実施、11月に子会社化が完了した(LIXILビバはビバホームに社名変更した)。買い付け総額は約433億円と報じられている。

LIXILビバからビバホームへ社名を変更

 両社の売上高は、アークランドサカモトが1126億8400万円(20年2月期)、ビバホームが1885億600万円、営業収入を加えると1968億8600万円(20年3月期)。単純に合算すると3095億7000万円となり、HC売上高ランキングで第5位となる。

 アークランドサカモト+ビバホーム連合の誕生は、売り上げ規模の大きさだけでなく、「本格ホームインプルーブメント(HI)ストア」の業態確立において、「リーディングカンパニーが現われた」こととなる。すなわち、米国や欧州のHCのように、木材・建材を初めとするHI商品を、①建築のプロにも供給し、②リフォームサービスの提供と組み合わせて一般消費者にも販売する業態として、その取り組みが最も進化している企業グループが現われたと言える。今後は、もともと本格HIストアづくりにおいて先行していたジョイフル本田などがどう動くか注目される。

 もう一つは、ニトリHDによる島忠のTOBだ。報じられているように、島忠に対しては最初にDCMHDがTOBの意向を示し、島忠との間で合意が形成されていた。しかし、DCMHDの1株4200円に対してニトリが1株5500円でTOBを提案。島忠はこれを受け入れると発表し、ニトリの島忠獲得が確定的となった。買収総額は約2140億円と報じられている。

 このニュースで重要なことは、ニトリHDがHC業界に参入したことだ。現時点では、ニトリが獲得した島忠の各店にどのように手を加えていくのか、HC+家具の現在のフォーマットを維持していくのか、それともニトリの「ホームファッション」業態に転換していくのか、確かなことはわかっていない。ただ、ニトリは現在の業態では国内に展開できる店舗数が限界に近付いていて、少なからず閉塞感を抱いていたことがある。より小商圏で成立できるHCは、ニトリにとって既存店と競合することなく新しく獲得していける市場となる。ニトリの次の一手にも注目したい。

 このほか、DCMHDは傘下に加える企業を常に募っているし、コーナン商事も案件によっては積極的に検討する姿勢だ。筆者が注目しているのはイオンの動向。03年にホームワイドをイオン九州に合併、06年にサンデーをイオンの子会社にして以来、動きが止まっている。HC業態が改めて注目を集めている中、次の動きがあるかもしれない。

大手企業はPB開発で低価格を訴求

 21年のHCの課題は、予想される今後の景況の悪化だ。消費の冷え込みにどう対応していくか。もう一方では、20年に増大したHCの各商品分野に対する需要をどう維持していくかである。

 コロナ問題によって失職・失業や所得の減少が多発することに加えて、根本的な問題として、もともと進行していた日本人の貧困化、所得の2極分化、中間層の消滅という問題がある。コロナショックでその状況が一段と進行して、「消費したくても消費できない」層が拡大する状況が懸念される。もう一方には人口減少、少子高齢化、都市集中という大問題がある。

 景況が悪化する中で、日用消耗品や家庭用品の分野において、「不必要なものは買わない」と「できるだけ安く買いたい」と二つの傾向が強くなることは目に見えている。消耗品の価格競争が激化することは間違いがなく、どのように低価格を打ち出していくことができるかが大きな課題となる。

 そこでより有利なのはPB開発において先行している大手企業だ。とりわけカインズの取り組みが傑出しているが、非公開企業なので数値の発表はない。その他コメリ42.4%、ナフコ35.9%、コーナン商事31.6%、DCMHD23.2%と、大手各社のPBの売上構成比は年々拡大している(いずれも最新発表の数値)。ローカルチェーンや中堅企業は、いかにして大手に対抗する価格を打ち出していけるかが重要な課題となる。

 ただ、大手と言えども、単純に価格指向型のPBを開発するだけでは「うまみ」は少ない。HCの核カテゴリーであるHI用品などにおいて、粗利益を充分に確保しながらなおかつ安さを打ち出せる商品をいかに開発していけるかが鍵となる。カインズはその点でも、家庭用品において「楽カジKITCHEN」すなわち「家事を楽にする」というテーマを打ち出し、新しい機能のユニークなPBを次々と発売して好評を博している。

カインズは家庭用品で新機能のPBを開発

 20年にはコロナ禍の巣ごもり需要でDIY、園芸、アウトドアなどの需要が急増したが、21年にそれらの需要がどう変化していくのか。それは「HCの取り組み次第」と言える。

 DIYにしても園芸にしても、大きな出費を伴わない「生活の楽しみ方」なので、不況下でも一定の需要を維持していくのか、 それともそれらは食品のような必需ではないので、出費をカットされる対象の一つとなるのか、現時点では両方のシナリオが考えられる。

 HCとしては、DIYならDIYに興味を示した消費者に対して、次の段階の需要を喚起する商品やサービスを提案できるかどうかが明暗を分けるだろう。DIYの需要の急増を一時の線香花火で終わらせるのか、それともライフスタイルとして定着させることができるのか、それはひとえに、HCがDIYの楽しさ、工夫の仕方、勘どころをどの程度紹介できるかに掛かっている。HCの取り扱いカテゴリーに関心を示した消費者を逃さないこと、掴まえ続けていくことが、今後数年間を左右する重要な命題となる。

 もう一つ、21年の取り組みとして重要なことは、コロナ禍の生活の変化に改めて注目して、新たに発生している需要に適切に対応していくことだ。感染対策はもちろんのこと、自宅での料理や食事の増加など、注目するべき需要の変化は多数ある。一つの大きな切り口はリモートワーク・テレワークの増大と、それに伴って発生しているSOHO(スモールオフィス、ホームオフィス)の需要。ただしこれは、「首都圏のみの需要」「都市と田舎とは違う」という声もあるので、地域ごとに生活の変化を見極める必要がある。

建築のプロの市場は6兆円と言われている

 HCの特定のカテゴリーを切り離して、独立した専門店として展開する事例も増えている。ペット、ワークウェア、カー用品、生活雑貨などの例があるが、最も有望な専門店は建築のプロを対象としたプロストアだ。

 この取り組みで先行しているのはコーナン商事。01年から展開しているコーナンPROが92店舗となったほか、19年にLIXILグループから買収した建デポも66店舗ある。追随するDCMHDのホダカは30店舗。20年にはカインズもプロストア1号店を開店した。

カインズは初のプロ向け会員制卸売店を立ち上げた
コーナン商事は建築のプロを対象としたプロストアに活路を見出す

 建築のプロの市場は一説には6兆円と言われているほど膨大で、未だに近代的な商習慣が確立されていない。なおかつ、個人の職人や小資本の工務店が買い物の場に困っている。HCにとっては身近な市場でもあり、専門店を展開して市場を獲得していく余地は充分にある。

 もう一つ重要なことは、HCに限った問題ではないが、ECが急速に普及しつつあることだ。コロナショックの20年には、商品分野によっては、瞬間風速的に全小売りの10%に達したという声もある。できるだけ外出を控え、接触を避けるために、ネット販売の拡大は必須となった。基本的には店舗に受け取りに来るBOPIS(バイ・オンライン・ピックアップ・イン・ストア)を奨励して、そのショートタイムショッピングの便利さを訴求する必要がある。これは大手だけではなく、中堅企業やローカルチェーンにとっても不可避の重要なテーマになりつつある。

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