集客の相乗効果を狙いパルコと百貨店を一体化

 ――昨年11月、心斎橋パルコを開業しました。

 好本 おかげ様で大変好調です。私も(大丸)心斎橋店の出身で、あちらには知り合いも多いのですが、評判はすごくいいですね。

 ――パルコは、大阪は初めての進出ですか。

 好本 実は9年前まではあったんですが、小さい店でしたから、「パルコは初めて」と思っている人が大半でしょうし、そう思って来てもらう方がいいと思います。規模とコンセプトが全然違いますから。

 ――そのパルコは、一昨年建て替えた心斎橋大丸とつながっているのですね。

 好本 ものすごい相乗効果が出ると思いますよ。大丸に入りきらなかったラグジュアリーブランドをパルコの1階に入れる一方、百貨店に入れないようなラインもありますから、百貨店のお客様にとっては面白い。実際、パルコの開店時は、最初の2日間で外商のお客様が2000人ほどみえるなど、関心の高さを感じました。

 ――パルコが得意とする若い世代以外にも注目されたのですね。

 好本 上の劇場やホールは、幅広い世代に楽しんでいただける。もちろん、中間のファッションや雑貨のフロアは20代、30代と若く、そうした層の百貨店利用も期待できます。

 ――一方、百貨店業界全体を見れば、衰退の一途。そこにこのコロナ禍の追い打ちです。これからの百貨店の存在意義をどう考えておられますか。

 好本 小さな都市は別ですが、大都市や一定規模の地方都市にとって百貨店は絶対に必要だと思います。ただし、文化財のようにではなく、利益を稼ぎ、自立することが不可欠。そこは絶対守らなきゃならない一線です。日本の百貨店は独自のものが二つあり、一つは外商。我々には約18万の外商カード、つまり選りすぐりの富裕層のお客様がいます。このお客様とはフェイスツーフェイスでつながっているので、何か提案する場合もお客様にいち早く浸透する。もう一つはデパ地下という食文化。これは本来のターゲットより客層が広く、メディアでも扱ってくれますし、それに対するレスポンスもいい。集客装置としても非常に効果があります。この二つをしっかり磨けば、百貨店の存在価値はまだまだあるし、自分たちで利益を出していけると思いますね。ただ、中級価格帯のファッション、靴、インテリアなどが厳しくなっていることは事実です。

 ――すると、そういう分野で新しいビジネスの芽を探している。

 好本 その最中です。化粧品とラグジュアリーは、富裕層やインバウンドの需要が期待できるので、化粧品は自前でやり、それ以外は定期賃貸借にして、最低限度の賃料をもらい、自前のところで儲けるという方針です。

図書館の誘致で集客力を強化、地元商店の入居で地域密着を図る

 ――すでに定期賃貸借で一つの新しい方向性を出されましたが、コロナでテナントの退店も出ています。ここにどう対応しますか。

 好本 定期賃貸借を大々的に導入したGINZASIXで明らかに閉まっているのはレストランくらいで、退店したところは新しいテナントで埋めています。GINZASIXのテナントさんはある程度資金力もブランド力もあるうえ、(契約の)4年縛りもあるので、ほとんど退店はありません。ただ、今年はその4年目に当たるので、勝負の年になります。心斎橋も1年経ったところですが、レストランで閉めているところはあるものの、出ていったところはありません。従来型の消化仕入れは、結構な売値をつけて利幅を大きくし、なおかつ売り上げを上げないとウィンウィンにはならないビジネスモデルなので、中間価格帯の婦人服や靴が売れないとなると一番きつい。心斎橋はほぼ(定期賃貸借への)切り替えが終わっていますが、それ以外の店はこれからどうやっていくか、早晩考えないといけないでしょうね。

 ――定期賃貸借では競合状況や立地を考え、どんなテナント揃えができるかが重要になりそうです。

 好本 そのために、我々本社やパルコ本部の人間は新しいものを探しに行く。同時に店の人たちは、地域のお客様の特徴やニーズ、競合の動向を見て処方箋を書かないといけない。中央の判断だけで、神戸の大丸や静岡の松坂屋をどうするかを決められません。とくに郊外店は、地域密着が重要で、百貨店だけでの集客が難しければ、ほかに何か必要になる。例えば、(大丸)須磨店は今年3月末、一番上のフロアに図書館が入ります。これまで本屋さんが入ることはありましたが、図書館は初めて。

 ――図書館は集客力が大きいでしょうね。

 好本 全然違いますね。図書館利用のお客様は、洋服を買ってくれるわけではないけれど、食品は買ってくれるでしょう。それに最低限の家賃はもらえます。その下のフロアは定期賃貸借にして、家賃を下げ、地元の商店に入ってもらう。百貨店をダウンサイズした分で利益を出しながらやれるモデルは描けます。ただ、それは須磨店だけ。神戸市が図書館を移転すると決めてくれたので、我々も思い切ってやれたわけです。

 ――定期賃貸借の導入は、人員の削減も伴います。

 好本 これはやらざるを得ない。定期賃貸借を増やせば得られる賃料は下がるわけで、それに見合った姿にする必要がある。心斎橋の大丸が開店した時に、ポスト数を250減らしましたが、準備に2年ほどかけました。関西一円の店舗で欠員や退職者が出ても、補充しないか短期人材で回して250人分の空きを作り、心斎橋店の開店に合わせ250人をそこに異動させました。これにより心斎橋店では一気に250人分の人件費を減らすことができたのです。構造改革は、時間もかけ、知恵も使い、省力化した生産性の高い組織作りと頭数の削減をバランスを取って進める必要があります。

 ――名古屋の松坂屋でも構造改革を予定しています。

 好本 心斎橋のスタートがものすごくよく、計算通りだったので、次は名古屋の予定でした。パルコは心斎橋では新参者でしたが、名古屋ではどっちも市民権を得ているので、名古屋は松坂屋のビジネスモデルを変えるのも、パルコとのシナジーを出すのも1番間違いなくできる。ただ、この状況なので少しスピードダウンせざるを得ない。それと、心斎橋の場合、減らしたポストを梅田や京都に移せましたが、名古屋は1店舗しかないので、それができないということがあります。

 ――構造改革でポストを減らす一方、新しい血を入れることも重要です。

好本 もちろんです。こんな状況でも、大丸、松坂屋、パルコも新入社員を採用する上に、中間採用も積極的にやっています。デジタルや不動産などの新しいジャンルのためにグループで、昨年69人、今上期だけでも32人を中間採用しました。一方、社内でだぶついているところは、選択定年の拡大処置をするなど、全体のバランスをとっています。

リアルの顧客接点を生かしたOMOの構築を推進

 ――パルコの活用、構造改革と並び、デジタルの活用も打ち出していますね。

 好本 我々の強みは、店頭販売員や外商係員がお客様とつながりを持っていることです。店頭である程度お客様とやり取りをした上で、決済だけをオンラインにするとか、購入前のやりとりをオンラインでするとか、オンラインとオフラインを組み合わせていくことが既存のECとの差別化につながる。チャットや外商の専用サイト「コネスリーニュ」を通して、「お客様のためにこういうものを取り置きしてますよ」とか、Zoomのようなものを通して映像でやりとりができれば、店に来てもらわなくても販売ができるかもしれない。それが我々の目指すべきところだろうなと考えています。

 ――そうした取り組みは始まっているのですか。

 好本 毎年、外商のお客様向けに美術品やラグジュアリーブランドの特別品を集めたホテル催事を行っており、日本中からお客様に来ていただいていたのですが、今回はこの状況ですから、首都圏以外のお客様は、Zoomで参加してもらいました。朝10時から夕方6時まで50分コマを八つ取り、ブランドの販売員さんをはじめ経験を持った方々が北海道から九州まで順番に商品の説明をする。モニターの向こうには現地の外商の係員がお客様についている。そうすると、画像は大したことはなくてもそれなりに売れ、こういうものがすごくニーズがあることがわかりました。今後、5Gが出てきてAR、VRともっと画像がよくなれば、宝石でも売れるかもしれません。

 ――Zoomを活用して説明もすれば、高額品の販売でも購買意欲を誘うことができると。

 好本 大丸、松坂屋の安心感、知っている外商係員から勧められるというのが大きいでしょう。外商係員が実際に訪問する場合、多くて1日、4、5件。それをウェブに切り替えれば、1日10件でも接客ができる。もちろんお客様にもITの使い方を覚えてもらう必要はありますが、一旦使いこなせるようになれば、外商係員がブランド品や美術品の売り場に行き、販売員と商品の説明ができるので、訪問するより効率的です。

 ――今、化粧品がかなり打撃を受けていますが、それもITを活用して売り方を進化させていく必要がありますね。

 好本 百貨店業界の化粧品ECは、売り場とは別に倉庫を持って、注文があればそこから発送する方式が多い。我々も、倉庫は作りますが、基本的には店頭の販売員がお客様となんらかのやり取りをする。「そろそろこの商品が切れますよ」とアプローチして、「こんな新商品が出ましたよ」とお勧めする。それが売り上げになったら、商品は倉庫から発送しても、売り上げは店舗につき、販売員の成績にも反映される。コロナ後になりますが、こうした形でやろうと考えています。

 ――そうなれば、店舗の販売員の負担も軽減されそうです。

 好本 洋服の販売員の例ですが、接客時間は勤務時間の15%ほどで、あとは倉庫整理やサンキューレターの執筆、電話対応などに費やされています。そうした負荷を軽減し、接客時間を増やせれば、それが商業施設の価値向上にもつながる。化粧品だとOMOのやりとりにESGを組み合わせ、化粧品のびんを回収したり、売り上げの一部をお客様と百貨店とメーカーが拠出するなど、いろんな取り組みが考えられます。

 ――取り組みの幅が広がる効果が期待できると。

 好本 ただ、それには人への投資が必要です。渋谷のパルコは、百貨店よりも若いブランドが多いのですが、それでもパルコのデジタルの仕組みについて来られるのは10社に1社程度。百貨店はもっと少ないでしょう。ですから、我々は人と取引先に投資する必要がある。百貨店もパルコも中計でアプリや外商のウェブの仕組みを作ってきましたが、使いこなせる人がいない。店頭の販売員、外商、お客様に投資して、みんなが使いこなせるようにしなければなりません。

 ――もともと必要だったことですが、それをコロナが加速している。

 好本 その通りです。コロナがなくても10年後にやらなければならないことが、コロナによって、今年やる必要が出てきた。今までは、「デジタルがわからなくてもやり過ごせる」と思っていた外商の係員も店頭の販売員も、もうそんなことは言っていられない。お客様は待っていても来てくれないのですから。

 ――来期、出店や改装の予定はありますか。

 好本 それはゼロにはなりません。ただ、今後のことを考えると、デジタル系(の投資)は必要です。大丸も松坂屋も、会計システムは、20年もの間大きく変えていない。それをカスタマイズしながらどんどん肥大化し、メンテナンスできる人もいなくて、これ以上続けると、何か起きた時に対応できないし、コストも大変だし、一つ変えようとすると全部変えないといけないという状況。パルコはその点、ビジネスモデルがシンプルで、へんなカスタマイズもしていないので変更もしやすい。今後、百貨店もそういう形に急速に改めていく必要がある。ただ、そうなると基幹システムに手を入れないといけないので、準備だけでも3年くらいかかり、投資も必要です。加えて、低炭素社会に向けた投資、リサイクル投資なども必要になる。そこを増やすとなると、売り場への投資を抑えざるを得ないのです。

 ――来期の需要をどう見ますか。

 好本 インバウンドがこういう状況ですから、当面は、日本人のお客様で利益を出すことが大切になってくる。我々全体のインバウンドの売り上げ比率は10%だったので、損益分岐点が90%以下でないと利益が出ないわけですが、今、売り上げが80%に下がっても利益が出ているので、損益分岐点がそれなりに下げられている。ただもう一段、構造改革をして下げたいと思っています。ただ、インバウンドは帰ってくる。力強く帰ってくると思いますよ。誰に聞いてもそう言っていますから。その時にやらなきゃならないのは、偏りの修正です。我々の外国人売り上げの90%は香港、台湾を含む中国人。インバウンド売り上げの大半が心斎橋と札幌で、売れているものは化粧品とラグジュアリーブランドばかり。日本のいいものをいろんな国の方々に買ってもらえるための準備をしっかりしながら、次を待たなきゃいけません。

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