「環境では売れない時代」に生まれた環境配慮型商品

「激戦の台所用洗剤ブランドの中で安定したポジションを維持し、しかも上質なこだわり派のお客様を店に呼び込んでくれる」。小売りバイヤーからそんな独自の存在感で評価されているのが、サラヤの「ヤシノミ洗剤」(写真)だ。商品コンセプトは、「人と地球にやさしい」。ヤシノミ由来の植物洗浄成分で手肌にやさしく、無香料で無着色。さらに排水はすばやく分解されるため、地球にもやさしい商品。これが手荒れを気にする消費者はもちろんのこと、環境意識の高い消費者にも強く支持され、着実に配荷店を広げている。「一度使っていただくとリピーターになっていただける方が多い」とサラヤ広報宣伝統括部の廣岡竜也統括部長は強調する。

小売りバイヤーから独自の存在感が評価されているサラヤの「ヤシノミ洗剤」

 ヤシノミ洗剤の前身となる商品が生まれたのは1971年。当時、石油原料の合成洗剤による環境汚染が社会問題化していたことから、サラヤは、植物原料のヤシ油を用いて業務用洗剤を開発。官公庁、学校、事業所などに幅広く導入された。

 やがてこの業務用洗剤を使っていた人たちの間で、「手が荒れない」との評判が口コミで広がり、「家でも使いたい」との声が寄せられるようになったことから、家庭用の洗剤の開発を決定。こうして今に続く「ヤシノミ洗剤」が誕生した。

 ただ、当時、販売につなげるのは簡単ではなかった。まず、手肌と環境への負荷を下げるため、植物原料を使用。しかも無香料・無着色にこだわったため、精製コストがかさんで価格も高い。環境意識が今ほど高くない時代で、バイヤーの反応もいま一つ。「商談時に『環境なんかでモノは売れない』と言われるなど、厳しい時期が長く続いた」(廣岡統括部長)

 しかし、そうした中でも小売店の棚から商品が消えることはなかった。それは、手荒れしないことを評価し、購入し続けるコアなユーザーがいたため。「大きな売り上げにはならないものの、特売などに左右されず購入してくれる層だったことから、店側も商品を置き続けてくれた」(廣岡統括部長)のだ。

 そこでサラヤでは、改めて商品コンセプトを軸にしたコミュニケーションを強化。この考えに共感してくれる層の取り込みに力を入れた。また、当時、ヤシノミ洗剤の主要購入層は50代だったため、若い世代の開拓にも注力。数十秒では商品の魅力を伝えきれないとテレビCMをやめ、代わりに商品の特徴を丁寧に説明した広告を若い主婦向け雑誌に出稿するなど、広告戦略も見直した。その結果、「利用者のボリュームゾーンが従来の50代に加え、30代にもできるようになった」(廣岡統括部長)。

原料生産地の環境保全活動が企業と商品のブランド力を高めた

 とはいえ、それで大きく市場が拡大したわけではなく、依然〝知る人ぞ知る商品〟の位置づけは変わらなかった。その状況が一変したのが2004年。それまで横ばいだった売れ行きが右肩上がりに転じたのだ。

 きっかけは、マレーシア・ボルネオ島の環境破壊についてのテレビ放送だった。植物油の生産地であるボルネオ島でプランテーション拡大による自然破壊の問題がクローズアップされ、メーカーの中で唯一、取材を受けたサラヤは、視聴者の誤解を受けて非難が殺到したのだ。そこでサラヤは、「誤解を解くことに加え、本当に環境にやさしい洗剤であるためには、川上から川下まで一貫していなくてはいけない」と、ボルネオの環境保全活動を開始。04年、現地で保全活動に着手する傍ら、翌05年には、世界各国の約80社とともにRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に参画し、持続可能なパーム油の生産・調達のルール化に取り組んだ。さらに07年には、ヤシノミ洗剤の売り上げの1%をボルネオの環境保全活動に寄付する取り組みを開始。09年には、ボルネオでの活動を消費者に知ってもらうキャンペーン「ボルネオ調査隊」も始めた。

 当初、社内ではこうした活動に否定的な意見も少なくなかった。「自分たちが稼いだ利益をなぜボルネオに寄付するのか。社員に還元すべきだといった声も多く聞かれた」と廣岡統括部長は明かす。

 それを変えたのは、社会の評価だった。05年の愛知県の「愛・地球博」、10年の名古屋市での「生物多様性条約締約国会議(COP10)」など、環境関連の国際イベントの国内開催が増えるにつれ、生活者の環境意識も向上。環境先進企業としてサラヤがメディアに頻繁に登場するようになり、同社商品の認知度がアップ、それに伴い売り上げも拡大した。結果、批判の声も次第に収まったという。

 環境保全活動と並行して商品の拡充にも取り組んだ。台所用洗剤では、21年に洗浄力を強化した「ヤシノミ洗剤プレミアムパワー」を発売。「ヤシノミ洗剤の新規利用者の離脱の理由は、多くが洗浄力への不満だった」(廣岡統括部長)ことから、洗浄力と泡立ち、泡持ちを高めたプレミアムパワーを新たに投入した。ターゲットは、エコには関心があるが、使い勝手も重視するというライトユーザー。エントリーモデルとして、広告などのコミュニケーションもヤシノミ洗剤と分けて行うことで、カニバリは起きていない。

2021年発売の「ヤシノミ洗剤プレミアムパワー」でライトユーザーの利用が増えた

 洗濯用洗剤もラインアップに加えた。現在販売中の「ヤシノミ洗たく用洗剤 濃縮タイプ」と「ヤシノミ柔軟剤」は18年に発売し、23年にリニューアルしたもの。実はこの分野、過去に粉末洗剤、液体洗剤を投入したものの、いずれも価格競争にさらされ市場から撤退した経験がある。ただ、3度目の挑戦はこれまでのところ順調に推移している。成功の要因は、ヤシノミシリーズの特徴の一つ無香料・無着色にある。香り競争がヒートアップした洗濯用洗剤市場で、「香害」から逃れたい層の支持を掴んだのだ。また、自社ECでの販売動向から得た、「一度購入するとリピーターになる」という情報を小売店との商談に活用。顧客を囲い込める商品として訴求したことで、配荷店舗も増えた。

台所用洗剤に洗濯用洗剤、柔軟剤も加わったヤシノミブランド全体で売り上げが拡大している

 こうした環境意識の高まりや商品ラインアップの拡充などが奏功し、ヤシノミブランド商品の需要は拡大、売上高も04年比で、ヤシノミブランド全体が4倍、ヤシノミ洗剤単体も2倍と、大きく伸長している。

対馬のゴミ問題を消費者と共有

 ヤシノミ洗剤誕生55周年となる今年、サラヤでは周年企画を打ち出した。施策の一つは、消費者を交えた環境保全活動だ。09年から始めた「ボルネオ調査隊」は9年間続いたが、現地の治安悪化を受けて取り止めに。昨年からは「海の今を見にいこう 大人の修学旅行in対馬ツアー」キャンペーンを始めた。長崎県の対馬には海流の影響でアジア各国から大量にプラスチックゴミが漂着している。この現状を知ってもらおうと昨年、キャンペーンを実施。4組8名の募集に対し約3900件もの応募があったことから、関心の高さを感じ、今年も2回目を企画した。

2025年に始めた「海の今を見にいこう 大人の修学旅行in対馬ツアー」では、消費者と海洋ゴミの問題を共有する

 この他、55周年企画のナビゲーターに招いた「OSAMU GOODS(オサムグッズ)」とのコラボレーションも検討中だ。「マザーグース」をモチーフにしたポップなイラストの「オサムグッズ」は、1976年に誕生、80年代に人気を博した。その歴史はヤシノミ洗剤の歴史と重なるうえ、当時を知る世代には懐かしく、若い世代には新鮮に映ることから、コラボのパートナーに選んだという。具体的な内容は未定だが、「歴史が重なるブランドとともに、ヤシノミ洗剤の原点に返るような取り組みを行っていく」(廣岡統括部長)予定だ。

55周年の記念企画としてOSAMU GOODSとのコラボレーションを予定している

 発売以来商品コンセプトを変えないヤシノミ洗剤は、入れ替わりの激しい台所用洗剤の市場では稀有な存在と言える。「環境なんかで商品は売れない」と言われる中、手肌や地球へのやさしさを訴求し続けてきたことが、今の消費者の信頼獲得につながった。廣岡統括部長は、「55周年を機に改めてこの価値を磨き、次の時代に引き継いでいく」と力を込めた。