英大手小売業セインズベリーは9月14日、中国EC最大手のJDドットコムとの間で進めていた傘下のアルゴス(Argos)の売却協議を終了したと発表した。前日13日には正式に協議中であることを認めていたが、わずか1日での決裂となった。

「ステークホルダーにとって最善ではない」

 セインズベリーによれば、JDドットコムが提示した修正後の条件やコミットメントは株主や従業員、幅広いステークホルダーにとって最善ではないと判断したという。そのため、これ以上の協議を続ける意義がなく、売却交渉を打ち切ったとしている。

 アルゴスは英国第2位の総合小売業者であり、国内で3番目に訪問者数の多い小売ウェブサイトを持ち、1100カ所以上の受け取り拠点を展開している。セインズベリーは2016年にアルゴスを買収して以降、自社の成長戦略の一角を担わせてきた。

 現在は「もっとアルゴスを、もっと頻繁に」という変革戦略を推進しており、品揃えの拡大、デジタル機能の強化、事業モデル効率化に取り組んでいる。25年夏の商戦期も好天に恵まれ、前年同期と比べて売上・利益とも堅調に推移したと説明している。

 セインズベリーは今26年3月期、小売基盤営業利益を約10億ポンド、小売フリーキャッシュフローを5億ポンド以上確保できる見通しを維持している。今回の協議打ち切りによる業績見通しの修正は行っていない。

協議開始から決裂まで

 協議の存在は9月13日にセインズベリー自らが認めていた。同社は当時、JDドットコムへの売却が「アルゴスの変革を加速させる」との見解を示し、JDドットコムの持つ世界水準の小売・テクノロジー・物流の専門性が、アルゴスの成長や顧客体験向上に資すると期待していた。さらに、取引条件にはアルゴスの顧客、従業員、パートナーの利益を保証するJDドットコム側のコミットメントが含まれる想定だった。

 JDドットコムは年間アクティブ顧客数6億人を抱え、中国最大の小売業者である。24年12月期の売上高は1588億ドル(約1285億ポンド)、25年上半期も918億ドル(約676億ポンド)を計上している。

 フォーチュン・グローバル500で44位に位置づけられるなど、世界有数のリテール・テクノロジー企業だ。英国市場においても欧州事業強化の一環として関心を寄せていたとみられる。

 しかし、最終的に両社の条件面に大きな隔たりがあったとみられ、セインズベリーは早期に協議終了を決断した。報道から公式認知、そして解消までがわずか2日間というスピード展開であったことは、交渉の難しさを浮き彫りにしたと言える。

 アルゴスはオンラインと店舗受け取りを組み合わせた「クリック&コレクト」モデルで英国市場に浸透しており、デジタルチャネルと物流拠点の融合が強みである。欧州小売業のDXに関心を寄せる中国系大手の姿勢が改めて明らかになった。