ウォルマートは6月24日、アメリカ国内で働く約150万人の従業員(アソシエイト)を対象に、AIを活用した業務支援ツールを本格導入することを発表した。業務の効率化、作業の簡素化、そして従業員の職場体験向上を目的としており、店舗運営のデジタル化を推進する重要な一歩ととらえている。

 今回導入されるAIツール群は、ウォルマートが提供する従業員用アプリ「ウォルマート・アソシエイト・アプリ」上で利用可能となり、日常業務における煩雑な手続きを大幅に簡素化する。タスクの優先順位づけや、リアルタイムでの多言語翻訳、AR(拡張現実)とRFID(ICタグ)を組み合わせた在庫管理支援などの機能が含まれている。

 ウォルマートのトランスフォーメーション&イノベーション担当上級副社長のグレッグ・キャシー氏は、「AIは働き方を改善する鍵であり、人の力と組み合わせることで真価を発揮する。直感的で使いやすい技術を150万人の手に届けることで、業務の質そのものが根本から変わる」と語っている。

シフトの大幅短縮や多言語翻訳

 特に注目されているのが、AIを活用したタスク管理ツールである。これは、従来複数のツールを駆使して行っていた業務指示や優先順位決定をAIが自動的に判断し、従業員にわかりやすく提示するもの。まずは夜間の品出し業務を対象に導入したところ、チームリーダーがシフト計画に要する時間が90分から30分へと大幅に短縮されたという。今後は他の時間帯の業務にも順次導入が進められる予定だ。

 多国籍の従業員が多く働いていることから、リアルタイム翻訳ツールも新たに開発された。44言語に対応し、テキスト形式・音声形式の両方で会話が可能。また、「グレートバリュー・オレンジジュースはどこか?」といった具体的な商品名も正確に翻訳できるよう、ウォルマート独自の知識ベースが組み込まれている。

 翻訳の精度はフィードバックを通じて継続的に向上しており、今後は対応言語の拡大や国際展開も視野に入れている。

生成AIを活用した会話型AIも

 これまでウォルマートでは、「ハンドソープは何番通路か?」「明日のシフトは?」といった質問に答える会話型AIを運用してきた。週に90万人以上が利用し、1日あたり300万件以上の問い合わせに対応するこのAIは、すでに業務インフラの一部となっている。

 今回のアップグレードでは生成AIを導入し、たとえば「レシートがない場合の返品手続き方法は?」といった複雑な手続きについても、分かりやすい手順に変換して提示できるようになった。これにより、従業員の自立性と問題解決能力の向上が期待されている。

 アパレル部門においては従来、在庫管理が特に困難とされていた。これに対しウォルマートはRFIDとARツール「ビズピック」の組み合わせによる解決策を提示する。従業員は商品棚をスキャンするだけで、ARによるビジュアル誘導を受けながら補充すべき商品を迅速に売り場へ移すことができる。すでに一部店舗で導入が始まっており、今後の拡大も計画されている。

独自のAIプラットフォーム「エレメント」が支える

 これらのAI機能は、ウォルマート独自の機械学習プラットフォーム「エレメント」を基盤に構築されている。「マイアシスタント」と呼ばれる本社従業員向けのAIや、商品担当者向けのAIアシスタントも同じ基盤上で動作しており、スケーラブルかつセキュアなAI展開を可能にしている。

 エレメントはデータガバナンスとセキュリティを重視した設計で、ウォルマートがAIを現場にスピーディーかつ持続的に導入できる重要なインフラとなっている。

 ウォルマートはここ数年、給与・福利厚生の改善、教育プログラムの拡充、キャリア開発支援など、従業員への投資を強化してきた。今回のAI導入も、単なる業務の効率化ではなく、従業員がより顧客と向き合い、充実感を持って働ける職場を実現するためのものと位置付けている。