団塊世代が後期高齢者となり市場が大幅に拡大
日本社会が「2025年問題」に直面している。今年はいよいよ団塊世代(1947~49年生まれ)が残らず75歳以上の後期高齢者に突入。超高齢社会が新たなステージに入り、様々な問題が顕在化するターニングポイントと言われているのだ。
これを捉え、ユニ・チャームは25年下期の重点カテゴリーに「大人用おむつ」を掲げる。排泄ケアブランド「ライフリー」において、肌あたりやはき心地に徹底的にこだわった紙パンツの新商品を開発。下着から紙パンツへの移行期のユーザーに寄り添った提案で、本人と介護者双方の〝その人らしい生き方〟を応援する。同時にプレミアム商品を入り口としてもらうことで、ブランドへの定着・単価アップを図り、ユニ・チャームが目指す業界総資産の拡大へとつなげていく考えだ。
大人用おむつ市場は直近5年間(19~24年)で約1.4倍に広がり、金額にして457億円増の1542億円まで拡大した。セグメント別では軽度失禁用のパッド、中度の紙パンツが全体の成長を牽引している。
市場拡大を後押ししているのは言わずもがな人口動態の変化だ。19年には70歳前半だった団塊世代が、この5年で後期高齢者に移行したことでニーズが増加。軽・中度を中心に客数が110%に増えたことに加え、価格改定に伴う価値転嫁効果で客単価も124%に拡大したことが成長に寄与した。

「日本の高齢者人口は今後も継続的に増えていく。また、30年以降には団塊ジュニア世代が60歳台に突入していく」。ユニ・チャームは引き続き大人用おむつの対象人口の拡大を見込む一方で、「市場を上回る成長を達成するには現状のトレンドを維持するだけでは不十分」とも感じているという。
その理由の一つは、継続的に実施されてきた価値転嫁の効果が今年いっぱいで一巡すること。そしてもう一つは団塊世代が75歳以上になりきったことで、後期高齢者人口の伸び率が今までに比べると鈍化すると予測されることだ。
こうした中ユニ・チャームは、軽度では早期ケアの提案で40代、50代の取り込みを拡大、中度では団塊世代の気持ちに寄り添った付加価値品の強化に乗り出す。特に中度は、これまでエントリーを支えてきた超うす型・うす型パンツがベスト商品(中価格帯)中心の展開だったことを踏まえ、この秋からプレミアムラインの新商品を投入。30年とその先を見据えた入り口顧客の拡大に加え、最初期からプレミアム商品で囲い込むことで単価アップ、ひいては優良顧客の醸成を目指す戦略を掲げている。
紙パンツの入り口期に求められる「肌への優しさ」と「はき心地」
ユニ・チャームが新商品の開発にあたり、着目したのが高齢者の心の内にある〝ギャップ〟だ。75~80歳の後期高齢者に向けた調査では、実年齢は平均77.5歳の一方で、気持ち年齢は66.7歳と、気持ちの上ではまだまだ若い。
ユニ・チャームは「使用される方々の『自尊心』『自立志向』を捉えることが重要」として、今一度紙パンツ入り口期のユーザーのインサイトを深掘り。すると、「モレない」という基本の機能のほかに、「ムレない」「かぶれない」といった肌への安心感を求めるニーズ、「ズレない」「動きやすい」といった違和感のないはき心地を求めるニーズが多くあることがわかった。また実際に商品を購入する介護者においても、使用する本人が気に入っているかどうかを重視する傾向が高まっており、いたわり意識から多少値段が高くても機能や品質が良い紙パンツを選びたいというマインドが強まっていることがわかった。
こうした潮流を捉え、ユニ・チャームは「肌への優しさの追求」と「下着らしいはき心地の追求」の2軸で新商品を開発。いずれも10月7日から出荷を開始する。
まず肌あたりにとことんこだわったのが「ライフリー うす型軽快パンツOrganicコットンタッチ」だ。同商品の最大の特徴は「オーガニックコットン100%シート」を採用したことにある。高齢者の肌は乾燥しがちで刺激に弱い。ゆえに本人も、介護者も、日頃から肌の状態に気をつけ、身につけるものにもこだわりを持つ傾向があるが、こと紙パンツに関しては「下着ではないからある程度の違和感は仕方ない」という諦めが存在していた。そこでウエスト部の肌面側にオーガニックコットン100%シート(網目状)を搭載。肌あたりが最も気になるお腹周りを自然由来の素材が包み込む安心感に加え、綿が不快なムレや汗をしっかり吸収。高齢者の敏感な肌への刺激を低減した。
またウエスト部の糸ゴムの接合間隔を広げ、手に取った瞬間からふわっと軽やかな設計にしたほか、摩擦係数が現行品比で46%減で、布下着と同等の低摩擦素材をウエスト全体に使用し、肌あたりのなめらかさを備える紙パンツを実現。布下着とほぼ同等の肌あたりのなめらかさを備える紙パンツを実現した。

※デザイン・機能・形状・表示文言は最終ではありません。

もう一つの「ライフリー 下着の感覚Premium極上のはき心地」は超うす型パンツの新商品だ。超うす型パンツの使用者は2人に1人が週3回以上外出するなど活動的に過ごしており、紙パンツに対する抵抗感が強い。そこで下着により近いはき心地を追求すべく、特にお腹周りの圧迫感、股下のゴワゴワ感の解消に注力。これを実現する新技術として「お腹周りゴム0(ゼロ)設計」を採用した。お腹周りを伸縮不織布が包み込む設計にすることで、通常はゴム部分に集中してかかってしまう圧力が面に分散。柔らかく伸縮する生地を採用し、下着のような極上のはき心地を再現した。
さらに股下にストレッチシートを展開しフィット感を高めることで、股間部のゴワゴワ感、もたつきを軽減。吸収体の厚みも抑え、下着から移行しても違和感が少なく、すっきりとはきやすい紙パンツに仕上げた。

※デザイン・機能・形状・表示文言は最終ではありません。

今回の新商品はいずれも今までにない価値提供にこだわった商品だ。が、パッケージにおいてはパンツそのものを前面に押し出すのではなく、むしろ実写の人物モデルの生き生きとした姿が目に飛び込んでくるデザインを採用した。ユニ・チャームは「従来品とは違うプレミアム感の訴求と併せて、日々を活動的に過ごしていただけるイメージを喚起するパッケージを意識した。共感と前向きな気持ちから手を伸ばしてもらいたいという思いがある」と語る。
一方で、それぞれの商品が持つ価値・特徴を、潜在顧客にしっかり届けるべく、プロモーションにも力を入れる。店頭には商品の現物を吊り下げたPOPを支給。「Organicコットンタッチ」の肌ざわりや、「Premium極上のはき心地」の優しいフィット感を直に感じてもらうことで購入につなげる。また小売業がアプリなどのデジタル媒体で活用できるDDP(デジタル・デザイン・パック)を提供することでも認知を広げていくほか、ブランドのメッセージと新商品の価値をストーリに載せて伝える動画も近日ネットで配信予定。リアルとデジタルの双方でまんべんのない情報拡散、顧客とのコミュニケーションを図っていく構えだ。
プレミアム化促進を売り場展開でも推し進める
ユニ・チャームは今下期におけるライフリーの定番売り場のコンセプトを「プレミアム化促進」と掲げた。ポイントはやはり中度パンツの入り口からのプレミアム化だ。超うす型・うす型といったタイプ別のスペース配分については今後のあるべき売上構成比に沿って提案。その上で中央のゴールデンゾーンに新商品を中心としたプレミアム商品を固まりで陳列する。エントリー拡大による客数増と、付加価値提案による単価アップを両輪で実現し、将来の優良顧客の囲い込み・定着を狙う。

また同じ目線の高さで夜用タイプをゾーニングすることで、昼用・夜用使い分けを促進。既存客のプラス1品の買上点数拡大にもつなげていく。そのほか軽度失禁用パッドにおいても夜用の隣接展開を実施。テレビCM施策と併せ、認知・トライアル率を着実に引き上げていく方針だ。
紙パンツへの移行期に差し掛かる顧客の心境に寄り添い、細やかな提案でさらなる市場活性化を見据えるユニ・チャーム。年齢を重ねてもずっと前向きに過ごしたいという本人の意思と、いつまでもその人らしく生きてほしいという家族の願いを商品開発で後押しする同社は、来たるべき超高齢化社会でますます存在感を高めていきそうだ。