食品流通のすそ野が広がっている。食品小売り一つとっても、スーパーマーケットに加え、ディスカウントストアやドラッグストアなど、新たに食品を扱う業態が続々と増えており、競争も激化している。その中で勝ち残るには、商品やサービスの差別化戦略を立案し、実行する現場や本部の人材のレベルアップが欠かせない。全国スーパーマーケット協会では、食品流通業界の人材を育成するためのプログラムを幅広く取り揃えている。中でもここではS検(スーパーマーケット検定)の「小売業全般」「食品表示管理士」「食品安全衛生管理士」、店長研修、さらに経営人材向けの「コーネル大学リテール・マネジメント・プログラム・オブ・ジャパン」について紹介する。
受検者のペースに合わせ学習や受検ができる
食品流通に関わる人材育成プログラムとしてのべ10万人以上に利用されているのがS検だ。国の「職業能力評価基準」に準拠した資格検定と資格取得に必要な知識の学習がセットになった、言わば業界のスタンダード検定だ。
年2回の受検期間にテキストを使って必要な知識を学び、受検して合格すれば資格が得られる。申し込みから受検まで全てオンラインで完結するため、受検する企業や個人の都合に合わせやすいのが特徴だ。
小売業全般、食品表示管理士、食品安全衛生管理士の三つで構成されており、中でも小売業全般は、流通用語入門・小売業入門などの食品流通業に関する基礎知識からマネジャーやバイヤーなど、管理者、専門職に必要な知識まで、6コースを用意。経験年数や業務内容に応じて求められる知識を体系的に学べることから、自社の能力開発プログラムにS検を組み込み、資格取得を人事評価制度の判断基準の一つとして活用する企業は多い。また、資格取得者に祝い金や手当を支給したり、表彰したりすることでモチベーションアップにつなげている活用事例もあるという。

メーカーから大学まで活用のすそ野が広がる
食品表示管理士は入門から上級まで4コースある。消費者の表示に対する意識が年々高まっている中、基本的な知識を身に付けることで、業界全体の法令遵守、安全面の底上げにつなげてもらうのが狙いだ。
食品安全衛生管理士は、入門講座と管理士・リーダーの資格取得コースがあり、後者は通信講座も用意している。食品安全を確保する担当者が知識と技術を習得するためのプログラムで、HACCPはもとより、微生物学や環境科学の知識も盛り込まれており、現場に対応した応用力のあるルール作成に役立つ。
食品表示管理士は更新制を採用しており、頻繁な法律改正に対応した最新の知識を得ることができる。近年は、食品表示に不備があった場合、SNSで一気にその情報が拡散され、企業の信用低下につながるリスクがあることから、必要な知識を持った人材の育成は欠かせない。
そうしたことを背景にS検の受検者も年々増加しており、さらに小売業以外の食品流通を取り巻く幅広い業種の受検も増加している。全国スーパーマーケット協会の富張哲一朗事業部次長によれば、「人手不足が深刻化するなか、食品メーカーがしっかりした食品表示を行うことで、納品先であるスーパーの管理業務の負荷軽減にもつながり、信頼も高まることから、表示管理士の資格取得に意欲的な食品メーカーが増えている」という。また、設備機器メーカーや金融機関などが、取引先である食品小売りについての知識を深め、営業活動に役立てようと、S検の受検に取り組むところも出てきた。さらに、ある短期大学では、この春に新設される食品関連コースのカリキュラムにS検のプログラムを採用するなど、大学教育の中にもS検を取り入れる動きが見られるようになった。
協会の鈴木志摩子事業部教育研修課チームリーダーは、「スーパーマーケット業界に対する学生の関心が高まるだけでなく、生活に欠かせない食についての知識向上にもつながる」と、すそ野の広がりに期待を寄せる。
店長や次代の経営人材の学びと交流の場を提供
協会では知識習得の学習プログラム以外に、店長や次代を担う経営幹部人材の学びと交流の場を提供するプログラムも用意している。
今年から本格的にスタートする「店長研修」はワークショップ型のプログラムだ。スーパー3~4社の店長が集まり、参加者が店長を務める店舗を視察した上で、店舗運営について意見交換する中で、自身の店舗運営の課題や改善点について気づきを得るというもの。他社の店長の目を通し、自分だけ、あるいは社内だけの視点では見えなかった点に気づき、店の運営に役立てるのが狙いだ。
また、異なる企業間では、経営トップ同士の交流はあっても、店長クラスの交流はなかなかないことから、この研修が企業を越えた人脈づくりに一役買う取り組みにもなっている。
この研修は2年ほど前から東京エリア限定で実験的に行っていたが、参加者に好評だったことから、この春、本格的にプログラムとして展開を始める。富張次長は、「今後は、関西や東北など、東京以外の地域にも取り組みの場を広げていくことを検討している」として、さらなる広がりに意欲的だ。
もう一つの経営幹部人材の育成プログラムは「コーネル大学リテール・マネジメント・プログラム・オブ・ジャパン」。米国のコーネル大学が認定した、食品産業の次世代ビジネスリーダーに必要な「マーケティング」「フィナンシャル」「マネジメント」などの知識を体系的に学ぶことができる。
毎年10月に開講し、毎月2日間ずつ、10カ月連続で講座を実施。受講生は、修了論文を提出し、最終日には論文発表を行う。
同講座は、今年度が14期目になり、これまで毎年20~30人強が受講し、過去13期の累計修了生数は325人に上る。多忙な中、ほぼ館詰め状態で行うプログラムはかなりハードな研修と言えるが、実りも大きく、修了生の中から約40人の社長が誕生しており、名実ともに経営人材育成のプログラムと言える。このプログラムの受講を役員昇格の条件にしている企業もあり、導入企業はスーパーマーケット、卸、食品メーカーと幅広い。
研修は人脈づくりの場にもなっている。長期間一緒に学ぶ中で培われた仲間意識は、研修終了後も続き、「スーパーマーケット・トレードショーの開催に合わせて一緒に学んだメンバーが集まり、情報交換するなど、コース終了後も活発な交流が行われている」(富張次長)という。

このように、協会では、食品小売りの新入社員から店長、企業経営者、さらにその関連業種に至るまで、食品流通業界に必要な人材を育成するための様々なプログラムを取り揃えている。加えて、協会の会員企業の要望に応じ、個別のセミナーや勉強会も実施し、各企業が抱える課題の解決にも貢献している。協会の鈴木チームリーダーは、「大手小売業であれば自前で教育体系を構築することもできるが、時間も人手も限られる中小企業には負担が大きい。そうした企業に寄り添い、それぞれの悩み事に対する解決策を提案していくのが我々協会の役割。経営上での困りごとがある場合は、ぜひ、協会に相談してほしい」と力を込める。