ウォルマート傘下のファッションEC大手、ミントラ(ミントラ・オンライン・ファッション・プライベート・リミテッド)は、インド市場に向けた新たなショッパブル・ストリーミング・プラットフォーム「グラムストリーム」を今年7月末に発表した。
ファッション、エンターテインメント、インスピレーションを融合したサービスで、単なる動画配信を超えて、視聴から即購入につながる新しいコマース体験を提供することを企図している。
動画の中に商品情報を組み込む
グラムストリームが従来のオンラインショッピングと一線を画す最大の特徴は、ユーザーのフィード内に自然に溶け込む動画コンテンツの中に、購入可能な商品情報が組み込まれている点にある。
音楽ビデオ、旅行Vlog、ウェディング映像、スタイリングやビューティ番組、ポッドキャストなど、500時間を超えるコンテンツが初期段階から公開されており、合計4000本を超えるエピソードが視聴可能である。これらの配信には、ボリウッド(インド映画業界)の著名俳優や人気インフルエンサーが多数登場し、オーバー・ザ・トップ(OTT)方式で展開される。
OTTとは、従来のテレビやケーブル放送を介さずに、インターネットを通じてスマートフォンやパソコンに直接コンテンツを配信する方式。インドではこの形式の普及が著しく、若年層を中心に急速に浸透している。
インフルエンサー主導型のライブコマース市場
さらに、ミントラが2024年に立ち上げたユーザー・クリエイターコミュニティ「アルティメット・グラム・クラン」とも連動している。同コミュニティには、登録者数100万人超のクリエイターが参加しており、ミントラにおける次世代コンテンツ・コマース戦略の中核を成す存在。
グラムストリームでは、このクランのコンテンツも随時展開され、インフルエンサー主導型のライブコマース市場のさらなる活性化が期待されている。
ミントラの最高マーケティング責任者(CMO)であるスンダー・バラスブラマニアン氏は、次のようにコメントする。「ファッションの発見は、今やソーシャルフィードやカルチャー的影響が中心となっているが、それらのインスピレーションは購入行動に直結していないのが現実だ」。
ミントラでは、それを変えるために革新を続けてきた。「特にZ世代の消費者は、購入前にリアルなレビューやユーザー生成コンテンツを重視する傾向が強い。グラムストリームは、“本物のインスピレーション”と“即時のアクセス”をシームレスに統合したコンテンツファースト型のコマース体験だ」(バラスブラマニアン氏)。
グラムストリームの各動画にはインタラクティブな「プロダクトトレイ(商品一覧)」が搭載されており、視聴者は気になった商品をタップして詳細を確認し、数ステップで購入に至ることができる。各機能はミントラのアプリ内に実装されており、ホーム画面上のフローティング・アクション・ボタンからアクセス可能だ。
AIで商品レコメンド機能も導入へ
今後、グラムストリームにはAIによるパーソナライズ機能を活用した商品レコメンデーションの導入が検討されている。また、クリエイター自身が商品をキュレートして展開する「クリエイター・ストアフロント」の機能も開発中であり、発見から購買までの導線をより強化していく構えだ。
ミントラは、インド国内でファッション、ビューティ、ライフスタイル分野をリードするECプラットフォームである。親会社はフリップカート・グループであり、そのフリップカート自体が米ウォルマートにより買収されている。
取り扱いブランドは、マンゴ、H&M、リーバイス、U.S.ポロアソシエーション、トミー ヒルフィガー、ルイ・フィリップ、ジャック アンド ジョーンズ、フォーエバー21、マークス&スペンサー、MAC、フーダ ビューティー、エスティ ローダーなど9700以上にのぼる。インド全土の95%以上の郵便番号をカバーする物流網を有し、全国的な顧客基盤に支えられたサービスを展開している。
これまでも、Mスタジオやショート動画機能「ミニーズ」といった独自の取り組みにより、インスピレーション主導型のファッション発見と購入体験を提供してきた。グラムストリームもその延長線上にあり、単なる機能拡張ではなく、同社が描く次世代ファッションコマースの重要な転換点と位置付けられている。