ウォルマートの会員制倉庫型店舗「サムズクラブ」が、広告の新たな全方位効果測定ツール「オムニ・インパクト」を正式に開始した。

  サムズクラブは広告プラットフォーム「サムズクラブメンバー・アクセス・プラットフォーム(MAP)」を通じて小売広告の進化を続けてきたが、オムニ・インパクトは、従来の広告効果測定とは一線を画すものである。

  単なるアトリビューション(広告効果の寄与分析)ではなく、AI(人工知能)とサムズクラブ独自の会員データを活用し、広告投資の実際の効果を科学的に捉えるツールであり、広告主は各チャネルに投じた資金がどのように売り上げにつながったのかを高精度で把握することが可能となる。

広告ごとの売り上げ貢献度を「見える化」

 従来のマルチタッチアトリビューション(複数接点型の効果測定)モデルは、断片的なデータや仮定に基づいていた。そのため、広告主にとっては「どの広告がどれだけ売り上げに貢献したのか」が見えにくいという課題があった。

  これに対し、オムニ・インパクトは、クローズドループ環境(社内完結型の追跡システム)で得られる決定論的データを用いることで、各広告接点がどれだけインクリメンタル(純増的)な効果をもたらしたのかを可視化する。

  特徴的なのは、12カ月間にわたる縦断的なキャンペーン分析が可能である点だ。会員が複数の広告チャネルを経て購買に至るまでの全体像を、長期間にわたり追跡する。これにより、一度の接触で完結しない現代の購買行動に即した測定が実現する。

その広告は誰に対して効果があったのか

 また、オムニ・インパクトは単に「何が効果的だったか」だけでなく、「誰に対して効果があったか」も明確にする。年齢層、世帯構成、会員ランクといったオーディエンスセグメント(顧客層の分類)ごとのパフォーマンスを分析できるため、広告主はより精緻なターゲティングが可能となる。

  さらに、AIを活用して将来的なメディアミックスのシミュレーションや予算最適化も支援する。広告主の過去の実績とカテゴリ特性をもとに、最適な予算配分のガイダンスを提示することで、単なる測定ツールにとどまらず、広告戦略の策定にも貢献する。

  リテール・エクスペリエンス・ネットワークとは、広告を通じた会員体験の向上を重視する新しい概念であり、購買という行為を一過性のものではなく、ブランドとの長期的関係構築の機会ととらえる視点である。

  現代の消費者は、オンラインとオフライン、アプリと店舗、EメールとSNSといった複数のチャネルを横断しながらブランドと接触する。このような非線形かつ継続的なエンゲージメント(顧客接点の蓄積)に対応するためには、「どこで接触したか」ではなく、「どのように接触が積み重なったか」を測ることが重要となる。オムニ・インパクトは、そのニーズに正面から応えるツールである。

  サムズクラブは今後、インフルエンサーコンテンツや生成AIによる商品発見支援、リアルタイムでのキャンペーン最適化など、さらなる機能拡充を図るとしている。しかし、それらすべての基盤となるのが「正確な測定」だ。何が効果をもたらし、誰に届けるべきかを知ることで、初めてマーケティング施策は意味を持つ。

  広告主にとって、表面的なインプレッション数やクリック数にとらわれない、「本当の成果」を追求する時代が到来している。