ウォルマートの会員組織サムズクラブが、4月11日に開催された「インベストメント・コミュニティ・ミーティング」において、今後8〜10年を見据えた長期戦略を発表した。その内容は、単なる成長計画にとどまらず、クラブ型小売業のモデルを再定義し、世界最高のクラブ小売業者となるという野心的なものだった。

 サムズクラブは、約900億ドル規模の会員制小売チェーンとして、アメリカ本土およびプエルトリコで600店舗以上を展開している。これまで40年以上、クラブ会員向けの購買体験を革新してきた。今回の会議では、会員数を倍増させるとともに売上高と利益を2倍以上に引き上げるという明確な目標を掲げた。

 サムズクラブのクリス・ニコラス社長兼CEO(最高経営責任者)は、この戦略の中核に「会員制度の強化」「デジタルと物理的機能の拡張」「円滑で上質な購買体験の提供」の3点を据えていると説明した。そして、「これは小売業界で最もスピーディかつスケーラブルな変革のひとつであり、当社はフリート(店舗網)、従業員、そして会員体験への積極的な投資を通じて、世界最高のクラブ型小売業者になる」と語った。

 成長計画の一環として、サムズクラブはすでに発表済みの30店舗に加えて、今後毎年約15店舗を新設する予定。さらに既存600店舗すべてを段階的にリニューアルし、最新の店舗モデルを導入する方針だ。その先陣を切るのがテキサス州グレープバインに新設された最新店舗であり、これが「未来のクラブ」の標準となる。

 店舗網拡張と並行して、全米におけるeコマース基盤の拡大も加速している。ウォルマートの企業向けフルフィルメントネットワークとテクノロジープラットフォームを活用することで、店舗の立地に依存しない会員獲得が可能になっている。

会員体験を大幅に再構築

 サムズクラブは会員に対する価値提案(メンバー・バリュー・プロポジション)を、「バリュー(価格価値)」「アソートメント(品揃え)」「エクスペリエンス(体験)」「トラスト(信頼)」の4本柱に基づいて進化させている。特に、自社ブランドである「メンバーズマーク」は、過去2年間で売上成長の約50%を担っている。

 デジタルを活用した「スキャン&ゴー」や自動レジ通過技術「ジャスト・ゴー」、AI(人工知能)によるパーソナライズ広告といった先端技術を駆使し、買い物の利便性を高めている。また、「プラス会員」には送料無料を、「通常会員」には無料のカーブサイド・ピックアップを提供するなど、eコマース機能の強化によってデジタル利用率や初年度の会員更新率が過去最高を記録している。

 こうしたサービスの基盤を支えているのが、約10万人にのぼる従業員である。近年では賃金水準の引き上げ、キャリアアップ機会の提供、AIを活用した業務効率化など、従業員支援への投資も積極的に行っている。ニコラス氏は、「会員が従業員と有意義でポジティブな関わりを持つことで、更新率やロイヤルティが向上する」と述べている。

 現在、サムズクラブは会員数が過去最高を記録しており、広告やサービス事業の成長も著しい。特に、オムニチャネルアプローチによって若年層の開拓が進んでいる。ニコラス氏は、「これからは加速フェーズに入る。サムズクラブは世界最高のクラブ型小売業者を目指しており、これはまだ序章にすぎない」と強調、今後の成長と改革に対する強い決意を示した。