イオンは6月6日から、新惣菜プロセスセンター「クラフトデリカ船橋」(千葉県船橋市)を本格稼働させた。延べ床面積は2万1868㎡で、通常のPCの3~4倍の供給能力を持つ。ここで「まいにち、シェフ・クオリティ」をコンセプトに、商品の開発から販売まで一気通貫でデザインする製造小売り(SPA)形式で、食の専門家チームが開発した商品をプロ料理人の製造技術で生産する。
食嗜好の多様化により、スーパーの惣菜に対するニーズが従来の「家庭料理の代用」から、「家で本格レストランのおいしさを楽しみたい」に変化していることを踏まえ、イオンがグループ横断プロジェクトとして新惣菜PCの構想を立ち上げたのは2021年。それから3年を経て稼働したクラフトデリカ船橋では、温惣菜、寿司、チルド惣菜、弁当の半加工品および完成品、ソースの製造や原料加工を行い、関東エリアの合計約1500店舗(イオンリテール北関東・南関東カンパニー125店、まいばすけっと1130店、ほかマックスバリュ関東)に供給する。イオンは28年までに、三大都市圏を含む各拠点に同様のPCを新設する計画だ。
商品開発では、定番商品においても原材料・味・調理工程のすべてを刷新することで専門店水準の品質を実現。たとえば、19年に開発し、23年度に全食品2位の売り上げを記録した惣菜の看板商品「唐揚げ 唐王」では、自社製ブイヨンを真空調理で浸透させ、時間の経過とともにブイヨンの旨みを感じられる製法を取り入れた。
また、新PC用にシェフを含め新たな体制で開発した「海老トマトクリームスープごはん」では、主食にもなる新ジャンル「スープごはん」を開拓。昨年11月に改装オープンしたイオン相模原店では洋惣菜の冷ケースを試験導入するなど、展開を拡大している。
揚げ物や握り寿司は最終加工以外をセンターで調理するキット供給で、冷惣菜や弁当はセンターで製造および包装まで完了させるアウトパック方式。センター加工度を商品特性に応じて柔軟に設計することで、高品質と店舗作業の効率化を両立させ、店舗の惣菜販売能力の20%以上向上を目指す。
6月6日に行われた惣菜戦略発表会で、イオン執行役物流担当の手塚大輔氏は「供給品目数は現在の40アイテムから、100以上に増やしていきたい」と力を込めた。また、システム面では店舗のAIオーダーと今期中に連携させることで、原料仕入れや製造計画の最適化を図る。今後の課題については「川上の取引先ともデータを共有して、川下のデマンドベースでサプライチェーンの最適化を果たしていきたい」と語った。
イオン執行役GMS担当兼イオンリテール代表取締役社長の井出武美氏は、同社の惣菜事業について「特に大型店では、売り場面積、売り上げボリューム、客数で圧倒しているので、品揃えの幅と深さを常に追求していきたい。和洋中の基本的なメニューがすべて揃っていることに加え、クラフトデリカ船橋で新たな創作メニューを開発する。また、センターでのR&Dによって改廃スピードを数段上げていきたい」と語り、「生鮮でPBやサプライチェーンを持っているので、今後は生鮮連動して、素材もオリジナルというところにまで踏み込んでいけるのも強み」と自信を見せた。
中食ニーズの高まりを受けて、23年の惣菜市場は10兆9827億円(前年比4.9%増)と過去最大を記録した。イオンはSPA体制により、「家庭メニューの代替」といったスーパーの惣菜に対する固定観念を打ち破る構えだ。