次世代店舗を構想するJ.フロントリテイリングが「XR」を用いた新事業を推し進めている。

 4月24日、今年2月に米国で発売されたXRグラス「Apple Vision Pro」を追い風に、J.フロント、STYLY、WIRED、KDDIの4社は、共創型オープンイノベーションラボ「STYLY Spatial Computing Lab(以下SSCL)」を発足した。STYLYが手掛ける「XRプラットフォーム」を活用し、Apple Vision Pro向けのユースケースの創出から社会実装、次世代ビジネスに向けた研究開発を進めていく

 XRとは今話題のVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といった技術の総称だ。リアルとバーチャルが重なり合うことで、これまでの生活様式が変わる可能性を秘めている。

 SSCLでは実際、共創パートナー同士のコミュニティ、Apple Vision Proの体験機会の創出など様々な取り組みを行う計画だが、一番は「ユースケースの創出」だ。

 テックカルチャーメディア・WIRED日本版編集部のリサーチレポートを参考に、ワークショップの設計・運用を行うほか、J.フロントとKDDIのアセットや強みを生かし、コンテンツまで落とし込むことが狙い。「キラーアプリの開発ではなく、あくまでも新しいライフスタイルの提供」と同日開催された発表会で共創4社は口を揃える。

 J.フロントの林直孝常務(写真左)は「『浴衣を買いにパルコに行こう』から『花火を見にパルコに行こう』に変わる」と未来の店舗像を語った。

 「空間をどう活用し価値を生むのか、それが百貨店ビジネスにおける本質的なミッション」と林常務は話し、創業当時の「座売り」から第2形態「陳列式立ち売り」へと変化したこれまでの売り場形態を振り返る。空間面積を広げ、商品の品揃えを広げることで百貨店は進化を遂げてきたと強調し、今後はXRを活用した第3形態「体験の拡張・共創空間」を具現化する売り場づくりを目指す。例えば、限られた商品しか置けない狭い売り場でも、XRによって、バーチャルな棚を設け、無数の商品を取り扱うことができるかもしれない。お客目線でいえば、仮想のフィッティングルームで待ち時間のない試着、決済機能が紐づけばレジ待ちも不要だ。自分好みの売り場空間を自らデザインできるということになる。

 同社はこれまで、渋谷パルコやGINZA SIXなど、リアルの空間にARをプラスし、空間価値を高める取り組みを重ねてきた。今年2月にはSTYLYと協業し、渋谷パルコで「AR花火大会」を開催。実世界では実現困難な真冬の花火大会(東京・渋谷)をスマホ一つでかなえた。「今後、Apple Vision Proのデバイスが薄型になり汎用性が高まれば、それをかけてショッピングをする事例がすぐ来る」と林常務。手ぶらで百貨店を練り歩き、館内で打ち上がる花火を楽しむ日はそう遠くはなさそうだ。

(冒頭写真、左からJ.フロント リテイリングの林直孝常務、KDDIのパーソナル事業本部 サービス・商品本部 auスマートパス戦略部 ビジネス開発G グループリーダーの佐野学氏、STYLYの渡邊遼平CMO、「WIRED」日本版 エディター・アット・ラージの小谷知也氏)