イギリスではいま、スタウト(黒ビール)の人気が復活してきている。
モルティ(麦芽で作った;英俗語では「酔った」の意味も)でフルボディ(風味豊か)、ダークな色合いでクリーミーな泡立ちのスタウトの需要は、イギリスのスーパー最大手テスコで昨年1年間に販売が35%増加した。
歴史的に見ると、ギネスを含むアイルランドのスタウトが1世紀以上にわたってイギリスのビール市場を支配してきたが、19世紀末にはヨーロッパ大陸からラガーが到来したため、人気が衰退していた。
テスコのスタウト・バイヤー、クリスチャン・クラーク氏によれば、現在のスタウト・ブームを牽引している主な要因は二つある。
「ギネスが『ニトロサージ』という(超音波を使ってパブのようなほどよい泡立ちを家庭でも作れる)画期的な装置を開発したことで、大きな需要が生まれた。また、クラフトビールブームによって、イギリスの伝統的なビールの味を再発見する動きもある」(クラーク氏)。ここ数年は、若い愛飲家たちが個性的な風味のビールを積極的に探していることもあるという。
テスコでは現在、伝統的なビール、クラフトビール、地ビールなど、ノンアルコールを含む15種類のスタウトを取り扱っている。ブリュードッグのスタウト「ブラック・ハート」は2023年1月に発売されたばかりだが、今やテスコでギネスに次いで2番目に人気となっている。
パブの味わいを再現
ギネスの広報担当アンナ・マクドナルド氏は、「イギリスのパブで最も売れているビールに選ばれたギネスとギネス0.0(ノンアルコール)が、自宅でもパブのような黒ビールを楽しみたい層にヒットして驚異的な伸びを示している」と語る。
「ギネス・ナイトロサージの発売により、人々は超音波技術を使用して、パブで象徴的な『2回に分けて注ぐ』ことを家庭で体験できるようになった」(マクドナルド氏)。
黒ビールの歴史
スタウトは、焙煎した麦芽または大麦、ホップ、水、酵母を使って造られる。18世紀初頭にブラウン・エール、ペール・エール、「よく熟成したエール」をブレンドしたポーターとして誕生した。
スタウトの名前の由来は、ロンドンの屋台で働く人々に人気があったから。最も強い種類は「スタウト・ポーター(丈夫な運搬人)」として知られていたが、やがて略されてスタウトと呼ばれるようになった。
アイルランドに輸出されると、ダブリンの醸造家アーサー・ギネスが1759年に独自のバージョンを作るきっかけとなった。
第一次世界大戦中、イギリスではローストモルトの製造が制限された。ギネスが市場シェアを拡大し、イギリスではスタウト業界が回復することはなく、マックソンが主要ビールメーカーとして残るのみとなった。