10年かけて開発したマスクがパンデミックの抑止に貢献

「長期的に見て社会に必要でありながら今ないものは、自社でリスクを取ってでも開発し、市場をつくっていく」(松井秀正社長)

 大木ヘルスケアホールディングス(HD)のこうした姿勢がコロナ下で日の目を見た。

 同社の2021年3月期は、売上高が前期比3.2%増、営業利益が同34.4%増と、増収大幅増益で着地したが、業績拡大を牽引したのがマスクや除菌剤などの衛生用品だ。同カテゴリーの売上高は前期比57.9%増となり、構成比も前期の10.6%から16.2%に拡大。しかもこれは利益を抑えた結果だという。「もっと利益を得ようと思えば得られたが、コロナ下で衛生用品は社会インフラと考え、小売りさんの理解も得て、価格を抑えて販売した」(松井社長)ためだ。

 成長を牽引したマスクだが、実は、商品化には10年以上かかっている。同社がマスクの商品化に着手した2000年代の初めは、布マスクが主流で、需要も限られていた。にもかかわらず開発に乗り出したのは、WHOの「将来、パンデミックが人類の脅威となる」との予測を受け、感染が予防できるマスクや除菌剤がいずれ必要になると考えたためだ。当時はマスクの自主規格もなく、N95など、海外の高機能マスクを参考に開発したが、出来上がった商品は1枚1000円。「高過ぎて全く売れず数億円分を廃棄した」(松井社長)。その後、価格を抑えた商品を市場に投入したが、今度は品質が伴わず再び廃棄。そうしたことを繰り返した結果、現在の高品質で手頃な価格のマスクを大量に作れるようになったのだ。ちなみにこの間、マスクの規格づくりを国に働きかけるなど、マスクの品質の底上げにも尽力してきた。

 こうした新しい市場を創る観点で現在、松井社長が力を入れているのが、ペットのヘルスケア用品と園芸用品だ。ペット用品も園芸用品も主要な販売店はホームセンターや専門店だが、最寄りのドラッグストアで買える小ロットの農薬や肥料があれば、都市のマンションでも気軽にベランダ園芸が楽しめる。また、現状、人間用を代用しているペットの薬やサプリもペット専用品があれば、飼い主も安心できる。ただ、商品が流通していない段階では、メーカーは製造を、小売りは取り扱いを躊躇する。そこで大木では、メーカーには販売を、小売りには商品の供給をそれぞれ約束し、自社でリスクを取った上で商品化を進めているのだ。

中回転の商品群に特化した物流で独自のポジションを築く

 こうした取り組みには費用も時間もかかるため、それを支える収益源が必要になる。それが、既存の医薬品や健康食品、化粧品だ。これらも単にNB商品を卸すだけでなく、小売業やメーカーのPB開発を請け負い、「ドラッグストアトップテンのサプリのほとんどを受託している」(松井社長)ほどだ。また、大手メーカーの健康食品の商品開発も支援しており、一連の受託開発事業で手掛けた商品数は、2万アイテム、事業の売り上げは800億円に上り、売り上げ全体の約3割を占める。

 このほか自社開発の化粧品も、「取り組みを始めた当初は、品質はいいが価格が高く、扱いが難しいと言われることが多かったが、最近は、ドラッグストアの売れ筋上位に入る商品も増えた」(松井社長)と、こちらも競争力のある事業に育ちつつある。

 PBの受託開発も独自商品の開発もメーカー機能だが、メーカーを支援する機能の強化にも力を入れており、今期からは新たに広告代理店が手掛けるマーケティング機能の提供も開始した。メーカーが、消費者の潜在需要に応えた新しい商品を開発した場合、その商品がどれだけ優れていても、単に店の棚に並べただけでは、消費者にその価値は伝わらない。そこで、大木が開発段階からパッケージや価格設定、利益構造、販売や情報提供の方法をメーカーとともに検討し、販促も請け負うというもの。大手メーカーであれば、そうしたことは独自でできるが、中小やベンチャーにはハードルが高い。そこを流通としてサポートしようというのだ。

 物流では、大型センターの周囲に中・小型センターを配置し、それらを組み合わせることで、お客のニーズに応じた物流サービスを提供している。とくにドラッグストアは、チェーンや店舗によりセンター納品だったり、店舗配送が必要だったりと企業により異なる対応が求められるため、多様なニーズに効率的に応えられるよう、発注から、在庫、配送までの情報を中央で一元管理できるシステムを導入している。

 現在、コロナの追い風もあり、ドラッグストアの市場は拡大しているが、人口が減少するなか、いずれは成長も頭打ちになる。そうなれば、卸売業も本格的な競争を余儀なくされる。最大手のPALTACは〝物流のPALTAC〟と呼ばれるほど高効率な物流機能がウリで、売り上げ規模も大木の3倍以上。だが、松井社長は、戦い方はあると見る。「物流の効率化を極限まで追求しようとすれば、品数を絞りロットを大きくすることになる。しかし、医薬品、化粧品、健康食品などは、小ロット、ロングテールの品揃えが必要。我々は、ロングテールの中回転の商品群に特化した物流を構築することで独自性を打ち出すことができる」(松井社長)。さらに「これができれば、メーカーとニッチな商品群の取り組み強化も可能」と見ている。

 なお、今期の業績目標については、コロナの影響が見通せないとして公表していないが、「やるべきことをやれば結果はついてくる」として、従来の取り組みを徹底していく方針だ。

(写真・毎年2回実施しているカテゴリー提案商談会はコロナ下の今年はオンラインで開催した)

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