本社ショールームで楽しいショップ提案
「韓国化粧品恐るべし」。些か笑いを含んでこう語るのは、コスメとコスメグッズの専門卸、井田両国堂の井田隆雄社長だ。インバウンド消費消失、巣ごもり、マスク着用で化粧品の需要は激減。同社も少なからず影響を受けている。実際今期決算(2021年11月期)は、前々年の12月、前年の1月、2月はコロナ前で、インバウンド需要もしっかりあったことから、それを踏まえ売り上げ15%ダウンで予算を組んでいた。ところがフタを開ければ、上期売り上げは前期比1%減で収まり、利益は増益で着地した。増益要因の多くが韓国化粧品の売り上げというわけだ。
「韓国化粧品は昔はメイクアップが中心。今回のブームは完全にスキンケアに来ている」(井田社長)ことも売り上げ増の要因。ヒット商品の代表例がツボクサエキスを抽出した「シカシリーズ」。客層も広がった。中心の若年層が「お母さんこれいいから」と勧めることで母親世代の購入も増えている。
韓国化粧品以外の売れ筋は、マスクの上の化粧。眉毛関係の美容液、マスカラ、ヘアカラーなど。巣ごもりを反映、高級入浴剤もよく売れる。マスク着用の常態化ならではのヒット商品と言えるのがメイクキープミスト。メイク後にシュッと一吹き、メイクが固まり、ファンデーションがマスクに付かない優れもの。ニューノーマルに合わせ変化するコスメ、コスメグッズを探し出し、得意先への適切な提案と提供。これが売り上げの落ち込みを防ぎ、利益を稼ぐ井田両国堂の原動力となっている。
井田両国堂が取り扱うコスメ、コスメグッズは、国内、海外合わせ2万3000アイテム以上ある。それを得意先のニーズに合わせ卸していくわけだが、同社は、「ただ商品を卸すだけでなく戦略的売り場提案を含め、それに合った商品をソリューションとして提供していく」ことを営業戦略の根幹に置いている。本社(東京都千代田区)入り口に設置された8500SKUを集積したショールームはその象徴。テーマを「入りやすく、また来たくなるワクワク楽しいショップ提案」に置いている。
井田両国堂の得意先は、ドラッグストアが売上高構成比の5割を占め、百貨店・バラエティーストア3割、GMSその他で2割となる。だが他に、「メイクアップソリューション」「MSスタイル」「アーバンコンフォート」の店名で展開する直営店が23店舗ある。「お得意先と競合してはいけないので、地下鉄や百貨店の中とかに出している」。井田社長の口ぶりはいかにも細々という感じだが、存外大事な役割を果たしている。まずお客の変化、傾向、ニーズの把握。メーカーからも新製品を最初は直営店で売ってほしいと持ち込まれ、売れ行きを見て卸流通に移す事例も少なくない。
さらにより重要なのは、井田社長が営業戦略で最も重視する「プロジェクト陳列」と「ショップエクスペリエンス」の実験、検証の場でもあることだ。
男性化粧品の台頭は化粧品市場のパイを広げる
プロジェクト陳列は、ショップコンセプト、客層に合わせて「ビューティソリューション」「ライフスタイル別」「生活シーン別」に考えたカテゴリーを越えたクロスMD提案。パネルやサイネージも交えた訴求も行い、売り場を常に活性化していくものだ。毎月新たな提案と差別化商品を投入、客数増、買い上げ点数増を実現していく。
ショップエクスペリエンスは、字句通り、来店動機につなげる店舗での経験、体験の仕掛け。その内容をよりよく伝えているのが、井田グループのホームページに掲載されている同社営業マン2人のショップエクスペリエンスについての対談(20年12月当時)。以下要約してみる。
「直営店のとくに新店オープンではワークショップスペースを設けている。ドレッサーを用意してメイクを楽しみながら試せる空間を作ったり、『アイブロウの正しい描き方講座』『頭皮の診断』『敏感肌の診断』というコーナーを設けたりした」「わたしは自分が楽しい売り場にしようというスタンス。クリスマス需要に向け仕掛けたのが駄菓子屋をヒントにした売り場づくり。キャンディーボックスに様々な品を入れて、お客様がその中から好きなものを選ぶ。店名は同じでも店舗ごとに個性がある。それをしっかり(ショップエクスペリエンスで)お客様にアピールできれば、この店にまた行きたいという動機付けになる」
リアル店舗だけでなくECにも力は入れている。アマゾン、楽天、アスクルとの取引。メイクアップソリューションの自社ECも開始した。だが、売上構成比はまだ4%程度。今後徐々に拡大を図る構え。また、スキンケアの「四季彩」を直営店と通販のみで販売。売れ行きを見て販路の拡大を図る考えだが、スキンケアの中価格帯は競争が激しいこともあって、こちらも今一歩。「あきらめずにこつこつ頑張る」(井田社長)構え。
60代以上に客層を広げる「エクセレントエイジ提案」は、シニア客の多い京王百貨店新宿店内の直営店で実験、検証を進めてきた。だが、コロナで高齢者が外出を控え、実験そのものが停滞していた。が、周知のように高齢者対象のワクチン接種は急ピッチ。シニア客獲得再挑戦の環境は整いそうだ。
井田社長が注目するもう一つの変化に男性化粧品の台頭がある。まだ売れる地域、店舗は限られているが、「着実に市民権を得てきた」との見立てだ。事実「この2~3年は採用時の面接にメイクをしてくる学卒者も増えてきた」そうだ。化粧は女性がするものから男性もする。それは、「市場のパイが広がること、見逃せない」と井田社長は力を込める。コスメの専門卸として市場の変化をしっかり捉え、提案力に磨きをかける。変化の激しいコロナ下だからこそなお、この基本を忠実に守ろうとしている。
(写真は8500SKUを揃えた本社ショールーム)