コロナで枚数減に拍車、「経済性」志向が高まる
女性のライフスタイルの変化・多様化に加え、直近では巣ごもりでナプキンの使用枚数が減少、フェミニンケア市場が大きく揺れ動いている。ユニ・チャームは市場シェアナンバーワンの「ソフィ」ブランドにおいてプレミアム品の提案を強めるとともに、カテゴリーの壁を超えた売り場づくりを強化。同社がテーマとする「ライフタイムバリューの最大化による共生社会の実現」に向け、商品・売り場の両面で業界に先駆けた施策を展開している。
少子高齢化に伴い、生理対象人口は減少の一途をたどっている。特に団塊ジュニアが閉経を迎える2021年以降、この傾向は一段と加速すると見られている。事実、2000年からの10年間でフェミニンケアの市場規模は965億円から743億円に減少した。
しかし一方で、2010年からの直近10年間は総じて740億円前後で推移、横ばいを維持している。これはプレミアム品の育成により、生理対象人口の減少に伴う枚数市場の下落を単価増でカバーしてきたからだ。「数量構成比で見ると既に全体の6割をプレミアム品が占める。スタンダード品からの移行が着実に進んでいる」(ユニ・チャーム)証左だ。
中でもスイッチを牽引するナプキンの二大シリーズが、肌にやさしいタイプの「はだおもい」と夜用安心タイプの「超熟睡」だ。女性の就業率の高まりに伴い、長時間使用による肌トラブルを気にするニーズや、朝のモレをなくしたいニーズが増加。スタンダード品では対処しきれない生理の悩みにプレミアム品は新しい価値・機能で対応、顧客の支持を広げている。
では、コロナ禍を経て、こうしたトレンドは変わったのか。まず前提として、外出頻度が極端に減り、使用枚数の減少による枚数市場の下落に拍車がかかっていることがある。在宅勤務が増え、休日の外出、旅行も各自控えるようになった。普段、出先でこまめにナプキンを取り替える習慣があった人も、自宅にいるなら慌てる必要はない。2、3月の異常需要で売り上げが跳ね上がって以降は停滞基調が続き、20年全体で見ても市場成長率は前年を割り込む見込みだ。
顧客の意識にも変化が起きている。これまでよりも「経済性」を重視する傾向が強まっているのだ。しかしこれは単に安価なスタンダード品への切り替えを意味しない。ユニ・チャームが集めた声で多かったのは、「今まで使っていた愛用品を変わらず買っている」「クオリティーは落としたくない」というもの。代わりに、「買い物時にはより価格を見たり、コスパを気にするようになった」というのだ。つまり使用品そのものを変えるのではなく、これまで使っていたものをよりお得に買いたい意識が高まっていることがわかった。
プレミアム品のまとめ買いパックを集中訴求
市場縮小の加速と新たな購買傾向。この2点に対応すべく、ユニ・チャームが今期力を入れるのがプレミアム品のまとめ買いパックの推奨だ。新商品として、21年3月に「はだおもい極うすスリム290」「同360」の2品のまとめ買いパックを追加。はだおもいシリーズで6品展開とし、これに超熟睡など他シリーズも加え、まとめ買いパックの一大売り場を形成。パッケージに「たっぷり使える」とお得感を打ち出し、顧客の認知を高めていく。
実際、まとめ買いパックの販売実績はコロナ禍前後から急拡大。しかもまとめ買いパックは、スタンダード品の使用者がプレミアム品に流入するきっかけとしての役割も果たす。スタンダード品からはだおもいの通常パックに流入する人数に対し、まとめ買いパックに流入する人数は約1.3倍。大容量によるお買い得感から、ワンランク上の商品も手に取りやすくなると考えられる。
「コロナ禍の品薄により一時期スタンダード品の製造・供給が優先的に行われ、そちらにお客様が流れるかと思ったが、そうはならなかった。蓋を開けてみれば、20年度もプレミアム比率は高まっている。まとめ買いパックの伸びがこれを牽引している」(ユニ・チャーム)。経済性の訴求で新規客を取り込みつつ、既存客の囲い込みを強化。プレミアム化の着実な促進で、成熟下にあるナプキン市場の活性化を図っていく。
肌質に合わせて選べるパンティライナーを新発売
一方、ユニ・チャームは、おりものをケアするパンティライナーにおいても市場創出のチャレンジを続けている。
同社はこれまでも肌ケアシリーズとして「はだおもいライナー」を展開してきたが、近年肌悩みのニーズが多様化。肌質のタイプも人によって異なり一様ではない。ユニ・チャームの調査によると、例えば汗をかきやすいムレ肌と、乾燥しがちで刺激に弱い肌の構成比は約半数ずつと真っ二つに分かれる。1種類のシートでは到底対応しきれず、悩みに寄り添ったシートの提案が急務となっていた。
そこでユニ・チャームは従来展開していたはだおもいライナーの天然コットンタイプを廃盤とし、21年4月20日から「天然極コットン」として2種類を新発売する。一つがムレ肌向けの「通気性2倍タイプ」、もう一つが刺激に弱い肌向けの「低刺激デリケートタイプ」だ。
まず通気性2倍タイプでは、汗をしっかり吸収し快適なつけごこちのさらさら天然コットンシートを採用。シート全体は薄い造りながら吸汗力があるため、べたつきを極力抑える。また通気性にとことんこだわり、バックシートに特殊な加工を施すことで同社一般品の2倍以上の通気性を実現した。
一方、低刺激デリケートタイプでは、肌ざわりの良さにこだわったなめらか天然コットンシートを採用。肌に当たる感触がやわらかく、摩擦感が軽減されている。また全体にふわふわとしたクッション性のある構造を採用し、厚みは一般品の約1.4倍、圧縮回復性は2倍以上を実現。敏感肌向けの機能を凝縮した。
はだおもいライナーはこれを機にシリーズ全体でパッケージをリニューアルする。4月から新たな装いで計5品が売り場に並ぶが、中でも天然極コットンの2種類は清潔感を感じさせるさわやかで明るい基調に統一。シリーズの中でも違いを際立たせ、この2種類からニーズに沿って選べる機能性と楽しさを打ち出す。
ユニ・チャームは、「肌ケア※訴求は当社としても力を入れてきたところだが、肌質によって選べるラインアップというのは初めての試み」と新提案に自信をうかがわせる。天然コットンにこだわる同商品はピース単価も高いため、選択の幅が増えたことで切り替えが進めば、ライナー市場の押し上げにも寄与する。ひいてはフェミニンケア市場の業界総資産拡大にもつながる重要商材として、春からの売り込みに力を入れていく構えだ。
(※こすれなどの肌への物理的接触を低減すること)
カテゴリーを超えた提案で顧客の生涯に寄り添う
トレンドの変化に応じ、売り場での提案にも変化をつけている。一番の変更点はやはり、単価アップのキーアイテムと位置づけるまとめ買いパックの陳列だ。これまでの並べ方は、例えばはだおもいのまとめ買いパックならはだおもいの通常品の横、超熟睡のまとめ買いパックなら超熟睡の通常品の横、といったシリーズごとの展開が一般的だった。
ユニ・チャームは小売店とも協力しながらこうした陳列を科学的に検証。アイトラッキングカメラを活用し、顧客が商品を見つけるまでにかかる時間、目線の動きなどを徹底的に計測した。その結果、従来の陳列では顧客の目線がばらつき、お目当てのまとめ買いパックを見つけるまでに時間がかかっていることが判明。「まとめ買いの認知率向上・購買促進という意味では最善の陳列とは言えなかった」(ユニ・チャーム)と反省。
そこでこの下期から推し進めているのがまとめ買いパックの一体陳列だ。シリーズの枠を超え、あらゆるまとめ買いパックを1カ所に集約することで商品認知を向上。トラッキングのデータからも、一体陳列の商品群に目線が集中することで購買に結びつきやすくなることが実証されている。棚を5、6本以上確保できる郊外店舗においては、棚1本を丸ごと使ってまとめ買いパックを並べる独立展開を推奨。スペースが限られた店舗においても、棚の最下段に集約するなどの施策で認知が高まることを啓発しながら、一体陳列売り場の導入を拡大していく考えだ。
もう一つ、ユニ・チャームが中長期的な展望の中で取り組みを強めているのがカテゴリーを超えた売り場提案だ。同社は全社テーマに「ライフタイムバリュー最大化による共生社会の実現」を掲げる。これに必要なのは、顧客の生涯に寄り添い、時々のライフステージに合わせた適切な提案を行っていくことだ。「今、生理用品売り場ではだおもいを買っているお客様が3年後、5年後、10年後にはどんなお客様になっているのか。その時どんな商品が必要なのか。そこまで突き詰めて考えていく必要がある」(ユニ・チャーム)。これを踏まえ、売り場提案においても商品軸・カテゴリー軸にとどまらない、顧客軸での提案が動き出している。
その一つが、生理用品の横に、軽度失禁ライナーなど尿ケアの専用品を並べる提案だ。これまで分かれていた売り場を連結させるシームレスゾーニングによって、女性のライフサイクルに沿った段階的な商品提案が可能となる。将来的には中度・重度の介護おむつの売り場までを連結させることで、各カテゴリーのリレーションをより強化する考えもある。
今後はこれにデジタルを駆使した1to1マーケティングもかけ合わせていく。あくまで小売業各社との個別の取り組みになるが、例えば新生児用のおむつを買った顧客に対し、数カ月後に赤ちゃんの成長に合わせたパンツタイプのおむつのクーポンを送る、などの仕掛けが考えられる。顧客の購買行動に沿った精度の高いアプローチが実現すれば、ブランドロイヤリティーが高まることはもちろん、一緒に取り組む小売業にとっては固定客を増やすことにもつながる。今後も売り場提案とともに取り組みを強め、店頭の活性化に貢献していく構えだ。
人口縮小、コロナ禍といった逆境においても絶えず新たなニーズを捉え、商品構成、売り場提案を磨き続けるユニ・チャーム。今後は顧客の生涯に寄り添う提案も深め、市場の牽引役としての存在感を一層高めていく。