医療用医薬品企業が扱う一般大衆薬再編の序章となるのか。武田薬品工業が一般大衆薬を扱う子会社・武田コンシューマーヘルスケア(TCHC)を、米国投資ファンド大手のブラックストーン・グループに今年度末に売却すると発表した。売却金額は約4200億円で、ブラックストーンは来年4月1日から「武田」の社名を外し、新会社を立ち上げる予定だ。

 それに先立ち、9月3日、ブラックストーンとTCHCは、「事業の今後の方針成長戦略」と題するオンライン共同記者会見を開催した。冒頭、ブラックストーンのプライベートエクイティ(企業投資)部門日本代表の坂本篤彦氏は、「5−10年先の上場を見据え、今後は独立会社として第2の創業を実現。武田薬品工業ではノンコア事業として投資が行き届かず成長が鈍化していたが、当社はパートナーとして『ヒト・モノ・カネ』への積極投資を行い、成長を最大化させていきたい」と力強く語った。

 特にブラックストーンでは主力のドリンク・ビタミン剤「アリナミン」と風邪薬「ベンザ」の品質や効能、認知度を高く評価し、投資に踏み切った。今後も両ブランドを軸に育成し、ブラックストーンのデータ分析も新会社で生かしつつ、1−3年程度で企業基盤強化を図る。この新会社で稼いだ収益は、新商品開発や需要の高い中華圏(台湾)を中心とした海外展開、ECへ投資。その後はM&Aも見据え、「買われる側から買う側」(坂本氏)への成長戦略を目指す。同時にブラックストーンでも業界再編でOTC医薬品の買収機会があれば、積極的な投資を行うと述べた。

 また発表会見では武田薬品工業を除く、TCHCの現経営陣、従業員はそのまま雇用・待遇を維持。TCHCが築いてきた伝統と文化はそのまま引き継ぐとした。TCHCの野上麻理社長は、「優先戦略のアリナミン、ベンザのメガブランド化、そして中華圏への進出を考えると、今回の決定は変化であるとともに大きなチャンスである」と力を込めた。

 武田薬品工業はTCHCの売却先として大手大衆薬メーカーや投資ファンドと昨年から交渉を重ねてきた。買収額が大きいことから、ベンザやアリナミンだけがほしい国内メーカーとは合意形成が難しかったという業界関係者の声もある。ただし、坂本氏は「総合力で勝負するので、今後もブランドの切り売りは一切しない」と明言した。

(冒頭写真はブラックストーンのプライベートエクイティ部門日本代表の坂本篤彦氏<左>とTCHCの野上麻理社長)