集中豪雨や猛暑などの極端気象、それに伴う自然災害は今や毎年のように発生、さらに今年は新型コロナウイルス禍も加わり、社会生活に大きな影響を及ぼしている。消費者の安全や健康・衛生に対する意識も変わり、自然災害や感染症への備えも日常的に行われるようになってきた。このように、社会や自然環境の変化に伴い生活者の行動が変わると、そこに新しいニーズも生まれる。大木ヘルスケアホールディングス(HD)が今期秋・冬の商品政策として掲げるのが、こうした社会の変化に伴って生じる新しいニーズに応えた商品や売り場づくりの提案だ。ここでは、同社の「園芸・ペット」「快適生活用品」「健康食品」「医薬品」「コンタクト」「コスメ&バラエティ」の各事業部門が注目した社会の変化と、そこから生まれるニーズに対応した商品・売り場づくりについて、具体的な提案の内容を紹介する。
健康と癒しを提案〈園芸ペット〉
今期、園芸ペット事業部が力を入れるのが、健康的なペットライフ実現に向けたサポートだ。ペットの飼育が長期化する中、高齢のペットが増加し、健康維持や病気治療に対するニーズが高まっている。そこで大木では、ペット用の医薬品・サプリメント・保険の取り扱いを提案。とくに、需要が伸びている「関節」「目の健康」「免疫力の維持・強化」を訴求したサプリメントのラインアップを強化する。このほか、ペット飼育者の悩みとして、ニオイに関するものが多いことに着目。ペットの「口臭」「体臭」「尿・便臭」などへの対策商品の取り扱いにも注力する。
園芸では、高齢化・晩婚化による単身世帯の増加に着目し、植物栽培による癒しを提案。この秋・冬は、スプラウトの栽培を勧める。ブロッコリー、豆苗などのスプラウトは、「天然のサプリメント」と言われるほど栄養価が高いため、植物を育てる楽しみと栄養摂取の1挙両得が見込めることから、種に加え、栽培用の専用容器も販売して、初心者の購入を促す。手入れがさらに簡単な観葉植物の訴求も同様の狙いだ。コロナ禍による外出自粛等でストレスを感じる人が増えている。部屋に観葉植物があると、ない場合に比べてストレスが軽減されるという調査結果もあることから、自宅やオフィスで手軽に楽しめるコンパクトサイズの観葉植物の提供に力を入れる。
ウイルス対策強化を提案〈快適生活用品〉
快適生活用品事業部では、ウイルス対策を重点施策に掲げる。過去20年を振り返ると、SARSや新型インフルエンザなど新しい感染症の発生サイクルが以前に比べ短くなっており、今後、新型コロナが収束しても新しい感染症発生の可能性が否定できない。そのため、マスクや除菌剤関係などの衛生商品は通年での備えが重要になる。そこで、これらを一同に集めたウイルス対策の専用売り場づくりを提案する。マスクは、高機能マスク、子ども用、洗えるマスクなど、需要の変化による複数の機能、またマスク関連商材などを取り揃えると現在の売り場では全く足りず、売り場の拡大が急務だ。除菌関連商品も、ハンドソープから除菌液、空間除菌剤など「除菌」に関連する商品をまとめて陳列することで、消費者の認知度を高め、購買につなげる。
このほか、日頃の歯磨きに舌磨き等の口腔ケアを加えることで、インフルエンザの発症率が10分の1に減ったという報告があることから、新しい習慣として舌磨きも提案。また、休校や在宅勤務の増加でストレスや運動不足、スマホやゲームによる身体への負荷が増加している状況を受け、「運動」や「姿勢矯正」といったコーナー展開の提案なども含め、今回のウイルスによる環境の変化の影響に対する提案にも取り組んでいく。
ウイルスに負けない身体づくりを提案〈健康食品〉
健康食品事業部では、ウイルス対策とダイエット・運動を軸に、商品提案を行う。例年、ウイルス対策商品は、インフルエンザが流行する冬場に需要が伸び、ダイエットや運動関連商材は、薄着になる夏場に需要が伸びるのが一般的なトレンドだった。しかし、今回の新型コロナの影響で、ウイルスに負けない身体づくりは季節を問わず必要になり、また、外出自粛による運動不足から、ダイエットや在宅での運動・ボディメイクに関する商品への需要も高まっている。そこで今秋・冬は、こうした季節商品の通年での品揃えを働きかけていく。
ウイルス対策では、免疫力を高めるために「腸内環境を整える」「代謝促進」「ストレス除去」に関連する商品の取り扱いを推奨。外出時にも手軽に摂取できるタブレットタイプの健康食品も含め、身体を守る「カラダバリア」商品を幅広く紹介する。一方、ダイエットや運動関連では、プロテインを訴求。緊急事態宣言でジムの利用が制限された中でも、プロテインの需要は落ちなかったが、筋肉増強を提案するスポーツ専門店に対して、ヘルスケア小売店では、タンパク質が健康維持・増進のキーとなる栄養素であることを啓蒙し、目的に合わせたプロテインのラインアップを提案。コロナを機にドラッグストアの利用が増えた男性や若い世代のお客の囲い込みを促進するだけでなく、年代や目的に合わせた提案を推進する。
身体の悩み解決を提案〈医薬品〉
医薬品を扱う営業企画2部では、新型コロナの感染拡大により消滅したインバウンド市場と感染予防の徹底で縮小した風邪薬等の国内市場に代わる新たな市場の創造に取り組む。その具体的施策が、「40代から50代の身体の悩み解決」の提案だ。同社では、40~50代の300人を対象に身体の不調に関するアンケート調査を実施。その結果から、「口」「耳」「首」「おしり」「背中」の各部位と「更年期」に関する悩みトップ3を洗い出し、これに対応した商品を専用の売り場を設け、「お悩み解決」のPOPをつけて訴求することを勧めている。漠然と感じている身体の不調を消費者自身に認識してもらい、薬で治せることを伝えることで、新しい売り上げにつなげる狙いだ。
このほか、災害対策として備蓄用医薬品のコーナー展開も提案する。多発する自然災害を受け、食品や医薬品の備蓄の必要性は高まっているが、医薬品の場合、どんなものを用意すればいいのかわからないという声も多い。そこで、ドラッグストアを始めとするヘルスケア小売店に対し、災害時に使いやすい医薬品をまとめた専門売り場の設置を推奨していく。
マーケティングをサポート〈コンタクト〉
コンタクトレンズと補聴器を扱うコンタクト事業部では、コンタクトレンズ販売を検討する小売業向けのマーケティング支援に力を入れる。約2万店舗のドラッグストアのうち、現在、約5000店舗がコンタクトレンズ販売を手掛けており、その数は増加傾向にある。そこで大木では、コンタクトレンズ販売を検討する企業向けに、店舗周辺の競争状況等を把握するためのソフトを開発。競合店の有無や立地ごとの市場規模などを示すことで、ドラッグストアのコンタクトレンズ導入を促す。
加えて、OTC専用のコンタクトレンズ「アイウェル」による固定客化も提案する。ある企業で実施した調査によれば、「アイウェル」のリピート率は約7割と圧倒的な高さを示した。左右両眼分を購入した場合、購入金額は、毎月5000円近くに上ることから、コンタクトレンズ販売を通じたロイヤルカスタマーの育成を推進する。
さらに、カラーコンタクトの導入にも力を入れる。今やコンタクトレンズ市場の2割を占めるカラーコンタクトだが、カラーバリエーションもあるため、取り扱いSKU数が多く、過剰在庫に陥りやすい。大木では、導入店での度数別の売り上げ分布をもとに、売り上げトップのブランドを選び、販売の多い度数を中心に品揃えすることを働きかけていく。
通年展開と新需要開拓を提案〈コスメ&バラエティ〉
コスメ&バラエティ事業部では、極端気象に備える取り組みを提案する。暖冬により、冬でも外に出る機会が増えた結果、紫外線のリスクが高まっている。さらに、平均気温の上昇に伴い、夏以外でも汗をかくことが増えてきた。そこで大木では、「通年美白」「アレルギー対策」「原液コスメ」「ニオイケア」の4つの切り口で季節商品の通年展開を推奨。気象の変化に合わせた新しいケアの習慣化を推進し、内外美容とともに売り上げ拡大につなげる。
加えて、ビジネスマンや「サードエイジ」と呼ばれるアクティブシニア層の需要開拓にも力を入れる。これまで美容のニーズが少ないと思われていた層の潜在需要を掘り起こし、顕在化することで新しい市場の創造を提唱する。また、日常生活で隠れた悩みを解消する観点から、ヘアケアに着目。二度洗いによる髪や地肌のダメージを気にする層や、時間をかけずに仕上がりを改善したい層を対象に、ヘアケアブランド「エイトザタラソ」の新商品「スムース」シリーズを訴求する。
病院・高齢者施設の作業軽減を提案〈施設関連〉
ここまでの事業部は、いずれも小売業向けの卸売事業だが、大木では、2年前、新たに施設関連事業部を立ち上げ、病院や高齢者施設などへの営業も開始した。高齢化に伴い、今後はこうしたチャネルの重要性が増すとの判断からだ。人手不足が深刻な介護の現場では、介護の質を維持しながら作業負担の軽減が課題となっている。施設関連事業部では、そうしたニーズに応えた商品の提供に力を入れている。例えば、紙パック飲料型の栄養ゼリーの提案もその一つ。これは、栄養素を添加したリンゴジュースをゼリー状にしたもので、ストローを使って摂取する。1パック100kcalなので、手軽にカロリーが摂れる点が特徴だ。これを導入した老人介護施設では、寝たきりの高齢者でもこぼさずに食べられたため、介護者の作業負担が大きく軽減されたという。こうした提案を重ねた結果、現在、取引口座数は200まで増えている。今後は、取引先をさらに拡大し、業務用の商品開発にもつなげていきたい考えだ。
長期的な視点で社会の変化を捉え、そこで生まれる需要に応えた商品を調達・開発して供給する取り組みは、大木が長年にわたり続けてきた戦略だ。コロナ禍が続く今年は、とくにその重要性が高まっている。ギアをもう一段上げ、こうした取り組みを加速させていく構えだ。