ウォルマートは最新の「Retail Rewired Report 2025」を発表した。このレポートは、AI(人工知能)、特にエージェント型AIが小売業界に与えている構造的変化を分析し、今後の方向性を示すものである。
エージェント型AIとは、ユーザーに代わって自律的に行動できるAIである。もはやAIは話題性だけの存在ではなく、買い物の中核を支える「実用的なレイヤー」となっている。価格比較や配送状況の確認、過去の好みに基づく商品選定など、日常的な購買体験に静かに浸透しているのが現実である。
主役はインフルエンサーからAIへ
注目すべきは、AIによる商品推薦とインフルエンサー推薦との信頼度の差が縮小している点である。27%の消費者がAIによる提案を、24%がインフルエンサーの提案を好むと回答した。この差はわずかだが、象徴的である。AIが「憧れ」ではなく「実用性」を提供することに価値が移ってきている。
消費者にとって、最も価値があるのは「時間」である。調査によると、69%の人が「買い物全体のスピード」を重視し、AIによるアシスタントがそのニーズに応える手段となっている。
しかし一方で、AIにすべてを任せることには抵抗もある。約46%の人が、「買い物全体をAIに代行させること」に否定的である。消費者は、提案を受けることには前向きだが、「購入を決める最終権限」は自分にありたいと考えているのだ。
プライバシーとコントロールへの意識の高まり
AIの進化と普及の鍵となるのが「信頼」である。そしてその信頼は、プライバシーと透明性によって支えられている。以下は、消費者がAIに期待する三大要素である。
・データの使用と第三者の関与に関する透明性を求める(27%)
・共有されるデータをコントロールしたい(26%)
・必要最小限のデータだけを収集し、機微な個人情報の保存を避けたい(25%)
これらの要素は、AIの技術的性能以上に重視される項目である。AIを導入する小売業者には、利便性の提供だけでなく、顧客との信頼関係構築が求められている。報告書は、AIの将来が技術主導でなく「人間中心」であるべきだと結論づけている。