英小売大手マークス&スペンサー(M&S)は7月13日、ロンドン中心部オックスフォード・ストリートの旗艦店「パンテオン」の改装を完了し、全面開業したと発表した。緑色の「PANTHEON」の看板で知られる同店は、4フロア・約10万平方フィート(約9300平方メートル)の売り場に食品、ファッション、住関連、美容の各カテゴリーを揃える。同社はこの店舗を、衣料・住関連・美容部門の店舗刷新の「設計図」を開発する研究開発(R&D)拠点と位置づけている。

 改装は営業を続けながら段階的に進められてきた。地下の食品売り場は生鮮市場を模した形式で昨年8月に開業し、今年1月には婦人服と美容の売り場が刷新された。今回、残る上層2フロアが公開され、紳士服、子ども服、ランジェリー、住関連の最新コレクションの売り場が加わったことで、全面開業に至った。

 各フロアには、厳選した商品群を見せる専用の部屋を設け、商品の見せ場やゾーニング、建築的な意匠を配置した。同社の伝統色である緑と暖色系の中間色を基調とし、間接照明、店舗専用の香り、選曲した店内音楽で空間を演出する。

 売り場の目玉としては、M&Sの紳士服として初となるオーダースーツのサービスを導入し、顧客は店内で注文仕立てのスーツを作ることができる。このほか、ランジェリーの専用ルーム「ボディ・ショップ」、ベビー服の専用ルーム、M&Sの化粧品に加え韓国コスメなど外部ブランドも扱う「ビューティー・ホール」を設けた。住関連売り場には、著名なインテリアデザイナーのケリー・ホッペン氏が自ら設計した特設区画に、同氏とM&Sの協業による住関連商品の特別編集売り場を置く。店内全体では、選びやすさを重視した商品陳列、着こなしの提案を映す大型のデジタル画面を導入し、ネット注文品の店舗受け取り(クリック・アンド・コレクト)や決済、各種サービスを円滑に利用できるようにした。

食品で確立した刷新手法を衣料・住関連へ

 同店の刷新は、成長に向けた再投資の柱である店舗網の刷新・入れ替え戦略の一環である。M&Sは今年度、ロンドンでパンテオンを含む6店舗を刷新し、4店舗を新規出店する計画だ。英国全体では、食品と衣料を併設するフルライン店舗2店、食品店18店の新規出店、4店の増床、複数店舗の刷新を予定している。

 スチュアート・マチン最高経営責任者(CEO)は「2019年、われわれは生鮮市場の魂を捉えた新しい食品店舗形式によって、食品事業を現代化する設計図を作った。クラパムのセント・ジョンズ・ロード店から始め、以来、このパンテオンを含め160の食品店舗を刷新してきた。今度は同じ手法をファッション、住関連、美容に持ち込む。1938年から店舗を構えるオックスフォード・ストリートのパンテオンは、当社初のフルライン旗艦店であり、衣料・住関連・美容のR&D店舗だ。商品の見せ場を明確にすることから店舗全体の見た目や雰囲気まで、買い物をより簡単に、より厳選された、より刺激のあるものにする方法をここで試している」と述べた。

 その上で「『魔法は守り、それ以外は現代化する』という当社の戦略の好例だ。人々が信頼する品質、スタイル、価値を保ちながら、体験をより現代的にする。店舗網の現代化にはまだやるべきことが多く、25年分の遅れを取り戻さなければならないが、パンテオンは大きな前進だ」と語っている。同店で成果が確認された施策は、時間をかけて他店舗にも展開される。

 全面開業に先立つ日曜夜には、同社のアンバサダーを含む100人超の招待客が、マチンCEOと経営陣とともに店内を内覧した。なお、今回の全面開業は、M&Sがファッション事業への参入から100年を迎え、今秋にロンドン・ファッション・ウィークで初のコレクションを発表するのと時期を合わせたものとなる。同店の所在地はオックスフォード・ストリート173番地で、営業時間は月曜から土曜が午前9時〜午後9時、日曜が正午〜午後6時である。

 今回の発表で注目されるのは、個別店舗の改装そのものよりも、食品事業で実績を積んだ「1号店で型を作り、店舗網全体に展開する」という手法を、衣料・住関連・美容という別部門に持ち込むと明言した点である。2019年以降に160店の食品店舗を刷新してきたという実績が、この手法の裏付けとして示されている。

 M&Sの衣料事業は長年、業績の重荷とされてきた分野であり、近年は商品面の立て直しが進む一方、店舗体験の刷新は食品に比べて遅れていた。CEO自らが「25年分の遅れ」と認める店舗網の現代化において、旗艦店を実験台とする今回の取り組みは、その遅れを取り戻す出発点と位置づけられる。