中国最大手のEコマース企業、京東(以下、JDドットコム)が、香港の老舗食品チェーン「佳宝食品スーパー(KAI BO Food Supermarket)」の買収完了を発表した。同時に、スウェーデン発の家具ブランド、イケア(IKEA)の公式旗艦店をJDドットコム上で開設し、オムニチャネル戦略を通じて生活関連分野での中国市場支配力を強化している。

香港での店舗型小売市場へ本格参入

  JDドットコムによる佳宝食品スーパーの買収は、同社が広東・香港・マカオ大湾区での存在感を高め、香港の小売業界へ本格進出する重要な節目となる。買収により、JDドットコムの先進的なサプライチェーン能力と、KAI BOが築いてきた地域密着型の運営ノウハウとが結びつく。

  1991年に創業された佳宝食品スーパーは、香港内に90店舗以上を展開し、従業員は1000人超。冷凍肉や青果、乾物など日常に欠かせない商品を、消費者目線でリーズナブルに提供することで、香港の家庭にとって親しみ深い存在となってきた。

  JDドットコムはこの買収により、実店舗小売に本格参入すると同時に、KAI BOを「イノベーティブ・リテール事業部」内の独立ユニットとして再編し、創業者のラム・ヒウンガイ氏をユニット責任者に任命した。

  買収完了を記念し、8月16日から18日まで、全店舗で20%オフのキャンペーンが実施される。

  JDドットコムは2024年9月に香港市場への本格進出を開始しており、「価格保証制度」や「自社運営電子製品の30日間返品・180日間不良交換対応」、「1品からの送料無料」といった顧客中心のサービスを導入してきた。物流面でも、香港島に設置された「JDエクスプレス」物流拠点がフル稼働を開始し、迅速な配送体制の整備を進めている。

イケアと組み、北欧家具の中国展開を加速

 さらにJDドットコムは、イケアとの協業によって自社プラットフォーム上に公式旗艦店を開設した。これによりJDドットコムの広範なオンライン顧客層は、北欧デザインで知られるイケアの商品6500点(全168カテゴリー)に直接アクセス可能となった。注目すべき商品には、「ベストボール」のゲーミングチェアや「モーロムローデ」のゲーミングデスクなど、新規ラインも含まれている。

  今後、両社はさらなる品揃えの拡充を進める計画であり、若年層を中心に多様化する中国市場の住空間ニーズに応えていく。JDドットコムの物流基盤を活用し、イケアは自社店舗のカバー範囲外に居住するユーザーにも配送を行うことが可能となる。JDドットコムは中国全土にわたる自社配送網を整備しており、現在95%以上の注文を24時間以内に完了させる体制を構築済み。

  また、ユーザー体験の面でも革新が図られており、「ミニ・リーヤン」と呼ばれる裸眼3D技術を導入。スマートフォンを傾けるだけで、一部のイケア製品を3Dで視覚的に確認できるようになっている。

裸眼3D技術「ミニ・リーヤン」を搭載した

  JDドットコムのシニア・バイス・プレジデントであり、JDリテールの家電・ホーム部門プレジデントを務めるヤンジョン・ヤオ氏は、「イケアとの連携により、家庭用カテゴリーのブランド展開がさらに強化され、インスピレーションと高品質を兼ね備えた製品を中国の消費者に提供できるようになる」と述べた。

  一方、イケア・チャイナのプレジデント兼チーフ・サステナビリティ・オフィサーであるポンタス・エルンテル氏は、「2018年以降、イケア・チャイナはデジタルチャネルを拡充し、オムニチャネル戦略を推進してきた。JD旗艦店の開設は『Growth+』戦略の一環であり、より多くの中国家庭に、質の高い住空間と利便性を届けることができる」と語った。

  中国の住空間市場では、個性化と多様化の波が急速に押し寄せており、ワンストップで商品選びができる利便性が新たな基準となりつつある。2025年上半期にはJDホームに参入した海外ブランドの数が前年同期比で130%以上増加した。

  すでにJDドットコムは無印良品、ナツッジ・イタリア、HAY、アンド・トラディション、ジョージ・ジェンセン、ロエベ、ル・クルーゼ、ビレロイ&ボッホ、リーデルなど多数の国際的ホームブランドと提携済み。