プレミアムフード市場に初参入
「人とパートナー・アニマル(ペット)がともに幸せな時間を過ごせる共生社会を実現する」。ユニ・チャームはこの企業理念の具現化に向け、また一歩前に進んだ。
同社はペットが一生を通じ健康で快適な毎日を送るため、フードからペットシート、マナーウェア、掃除用ウェットティッシュに至るまで幅広く展開。その中でも今期は犬用フードに力を入れ、プレミアムラインの新ブランド「グラン・デリ フレシャス」を立ち上げる。これまでにない機能をフードで訴求し、潜在ニーズを掘り起こすことで、ペット市場の活性化を図る。
ペットフード協会が実施する全国犬猫飼育実態調査によると、2017年、猫の推定飼育数が初めて犬の数を上回った。以降、犬用ドライフード市場は飼育数の減少、小型犬化によって成長が鈍化している。そんな中、売り上げを維持し市場を支えているのが、スタンダード品よりもグルメ志向の「ベスト」、また健康機能などの付加価値を打ち出す「プレミアム」ラインの商品だ。今後こうした二極化はますます進行すると見られている。
これまでユニ・チャームは「グラン・デリ」というブランドで犬用グルメフードを展開していたが、プレミアムラインのブランドは備えていなかった。そこで21年、同社は初となる犬用プレミアムフードへの参入を決めた。
ユニ・チャームが狙うのは、プレミアムラインの中でも専門チャネルが扱う「ハイプレミアム」を除いた、「プレミアム」「セミプレミアム」といったセグメントだ。ハイプレミアムは1キログラム単価1500円以上が相場で、主な購入先はECやペットショップとなる。一方、プレミアム(同1000円強)、セミプレミアム(同500円強)はホームセンターを中心に量販店での購入比率が高い。またハイプレミアムの成長に比べると、こちらは売り上げの伸びがやや停滞基調にあるセグメントだ。「ユニ・チャームが提案を得意とするのはリアルの量販店。ここで勢いが落ちかけているプレミアム、セミプレミアムの犬用フードを活性化したい」(ユニ・チャーム)。こうした思いが、新ブランド開発の大きなテーマとなっている。
もう一つ、ユニ・チャームが着目したのが、プレミアムフードに求められる価値だ。現状、市場にあるプレミアムフードは健康機能に特化して打ち出すものがほとんど。しかしユニ・チャームは、「健康に配慮することは当然大事だが、そもそもペットがちゃんと食べてくれないことには健康機能を享受できない」という根本的な課題に着目。「プレミアムフード=単に健康に良いものというのは売り手の発想。消費者はプレミアムフードに対し、栄養バランスが良い、原材料の質が良い、添加物に配慮されている、おいしいからワンちゃんがよく食べてくれるなど、総合的な品質の良さを期待している」という考えに行き着いた。
実際、フードの品質に敏感な消費者は、ドライフードにキャベツやささみなどの人間用の素材を混ぜ、栄養やおいしさを補おうとするケースもあるという。また、普通にドライフードを与えている消費者の中にも、「毎日同じ単色粒のフードでかわいそう」と罪悪感を抱えているケースもあり、プレミアム市場の潜在ニーズへの対応は十分とはいえない状況があった。
フリーズドライ素材をそのまま混ぜ込む
こうした課題に対応し、新しい価値でプレミアム市場を活性化すべく、ユニ・チャームが立ち上げた新ブランドがグラン・デリ フレシャスだ。フレシャスはフレッシュとデリシャスを掛け合わせた造語。「全ての愛犬に、開けたて新鮮でおいしい食事を毎日食べて幸せに過ごしてほしい」という願いが込められている。メーカー出荷は9月6日を予定している。
フレシャスには大きく2つの商品特徴がある。一つはプレミアムフードのベースといえる健康機能だ。既存のプレミアムフードをベンチマークし、基本となる「皮膚・毛艶」「免疫力」「健康的な便」「骨・歯」に対する健康機能を搭載した。もちろん着色料、香料といった添加物は不使用だ。
その上で、フレシャスはフリーズドライ製法の素材をそのまま使用することで既存品との差別化を図っている。粒に素材が練り込まれているわけではない。通常粒に加えて、フリーズドライのささみ、かぼちゃ、ブロッコリー、エアドライのにんじんがそのまま混ぜ込まれているのだ。これにより、今までの商品では訴求しづらかった「原材料の良さ」「栄養」「嗜好性」を打ち出す。見た目にも彩り鮮やかなほか、遠赤外線で香ばしく焼き上げた穴あき粒やハート粒も含まれており、香りでも食欲をそそる作りとなっている。
鮮度の面では包装にもこだわった。プレミアムフードはそのまま大袋に入っている商品が多いが、おいしさと風味を逃さないよう小分けを採用。アルミ蒸着フィルムでパックし、小分けごとに酸化を防ぐ脱酸素剤を入れることで商品の酸化を防止。品質の劣化を最小限にとどめ、鮮度を維持した状態で消費者に届けられる仕様とした。
こうした商品特徴が伝わりやすいよう、パッケージにも工夫を凝らした。全体のカラーは、これまでプレミアム市場にあまりなかった温かみのあるオレンジを採用。原材料のイラストを前面に出し、素材が粒に練り込まれているのではなく、フリーズドライでそのまま入っているという最大の差別化ポイントを強調した。その上で、健康機能や着色料等不使用、国産といった商品特徴も目に飛び込みやすいデザインに仕上げた。
ラインアップは、成犬用(チキン&ビーフ入り、チキン&小魚入り)、低脂肪設計、10歳以上用、13歳以上用の5種類で展開する。ベーシックな成犬用は好みに応じて2種類を用意。低脂肪設計は成犬用比で脂肪分を約20%カットした。10歳以上用、13歳以上用は健康維持によるエイジングサポートとして、成犬用比で約2.5倍のビタミンEを配合。さらに13歳ではビタミンCを調整し、免疫力維持をサポートする。腰・関節の健康維持に向けては、グルコサミン・コンドロイチンを配合。またビタミンB群も成犬用比で10歳1.5倍、13歳1.9倍にした。
容量は1キログラム(250グラム×4袋)、2キログラム(同8袋)とお試しの200グラムを揃える。価格設定は1キログラム1480円。ユニ・チャームの犬用フードでは今までにない高価格帯になるが、「持てる力の全てを結集し、プレミアムラインで自信をもって展開できる商品が開発できた」と自負する。健康とおいしさを両輪で打ち出す新コンセプトで、新たなニーズを開拓。低・中価格帯からのブランドスイッチを促し、点数下落を単価アップで補うことで市場活性化に挑む。
売り場で価値を伝えるコミュニケーションを強化
フレシャスは事前の消費者テストの結果も上々だ。実際に消費者の自宅に商品を送り、試してもらったところ、良いと思うと答えた人は83%に上った。見た目のおいしさ感、見た目の健康感といった項目では90%以上が良いと評価した。消費者に聞くと、「素材がフリーズドライで入っているのでワンちゃんがとても楽しんでおいしそうに食べている感じがした」、「肉だけでなくブロッコリーなど野菜が沢山入っていて見た目もバランスが良さそう」、「野菜が加工されずにそのまま乾燥されていたので安心感があった」といったコメントが集まり、フレシャス独自の特徴がきちんとターゲットに響いていることが確認できた。
またパッケージデザインの評価も高く、購入意向は85%に達した。店頭のように棚を作り込み、他社商品も一緒に並べたテストにおいても、フレシャスはフェース数を絞ったにもかかわらず「手に取りたい」と答えた人が最も多かった。
今後、実際に量販店の売り場に並べる際は、これまでのスタンダード売り場とは別に、プレミアムフード売り場での展開拡大を計画している。既存プレミアムフードを使っている消費者に対し、これまでとは違った切り口、新しい価値を提案。「健康フードばかり与えるのは味気ないのではないか」、「もうちょっとおいしそうなものを食べさせたい」といった潜在的な不満・要望にアプローチすることで、他社商品との比較購買を促す。またフレシャスの小分け仕様、おいしさ・鮮度維持は、昨今増加する小型犬飼育者にもアピールしやすいとユニ・チャームは分析する。「大袋でなく、小分けという設計からして小型犬に与えやすい。かつ小型犬はあまりフードを食べない子が多く、よりおいしさに厳しいといえる。フレシャスの商品設計が響きやすいと見て、こうした層を積極的に取り込んでいきたい」構えだ。
これに向け重要になるのが、売り場における価値伝達だ。現在、専門部隊が売り場ツールを作成中。商品名をあしらった単純なボードなどではなく、商品特徴・独自価値をきちんと伝えられるようなツールを作り込んでいる。店頭を消費者との重要な接点と位置づけ、棚提案・売り場づくりを支援するのはユニ・チャームの得意とするところ。フレシャスについても、ノウハウや知見を店舗と共有しながら、店頭コミュニケーションの強化で拡販を図っていく。そのほか、プロモーション施策についても、犬を飼っている幅広い消費者に届くような仕掛けを現在計画中だ。
「将来的には、このフレシャスを、量販店のプレミアムフード売り場になくてはならない商品へと育てていきたい」とユニ・チャームは意気込む。フレシャスがプレミアムラインの新たな選択肢として認知されれば、業界全体の提案の幅も広がっていき、結果としてプレミアム売り場そのものがこれまで以上に魅力的で充実した売り場へと変わっていく。
ユニ・チャームが目指す市場活性化はさらにその先にある。「犬用フードにはまだまだ提案の余地、市場拡大の余地が残っている。犬・猫フードトータルで売り上げナンバーワンの支持をいただいているメーカーとして、今一度そこに全力で取り組んでいく覚悟」。その決意を具現化した新ブランド・フレシャスで、ユニ・チャームはペット市場の牽引役としての存在感を一層高めていく。