長距離無線規格「LoRaWAN」を採用

 HACCP遵守事項の中でも重要なのが温度管理だ。温度管理の対象は「稼働中の全ての冷凍・冷蔵・常温・高温の保管庫」とされており、適切な温度や1日の測定回数などを事業者自らが設定し、問題発生時にはその記録をさかのぼれるように保存しておく必要がある。

 その温度管理を、無線技術とセンサーを使って手軽に低コストを実現したのが、菱洋エレクトロが提供するソリューションだ。全体像は図1の通りで、「モジュール・センサー」、「ゲートウェイ」、「ネットワークサーバー」、「アプリケーションソフトウェア」の四つで構成される。食品スーパーであれば、例えば1店舗あたり20台ほどのセンサーを冷蔵・冷凍庫に設置し、その温度や湿度の情報をセンサーが随時測定、店内に設置したゲートウェイ1台に電波で送信される。各店の情報はゲートウェイからネットワーク回線を通じてクラウド上のネットワークサーバーに集約され、管理者はアプリを介して必要な情報を確認できるという流れだ。

 その中でも、菱洋エレクトロのソリューションの強みは、センサーとゲートウェイをつなぐ無線規格にある。無線規格というと、一般的にはブルートゥースやWi−Fi(ワイファイ)、4G、5Gなどが想起されるが、これらは1度に大容量のデータを送ることができる半面、電波の到達距離が短い。

 対して同社がソリューションに採用しているのが長距離型の「LoRaWAN(ローラワン)」だ。1度に送信できるデータ量は少ないが、その分消費電力が低く、それでいて見通し距離は10kmに及ぶという特長がある。

 LoRaWANのメリットは大きく二つで、まずセンサーと電波のやり取りをするゲートウェイを利用者自身が自由に設置でき、その2拠点間の通信費が無料であること。事業者によってはSIMカードを内蔵したセンサーで、ゲートウェイとの電波のやり取りに通信費を支払わなければいけないものもあるが、これではセンサーの設置数が増えれば増えるほど、通信費がかさんでしまう。「LoRaWANに切り替えていただければ、ランニングコストの抑制で、センサーなどのイニシャルコストが回収でき、その後もコストダウンにつながる」と出野恵子・半導体・デバイス事業部 半導体・デバイス第6BU LPWAグループグループリーダーは指摘する。

 メリットのもう一つは、電波の双方向通信が可能である点だ。庫内の温度が少し上昇しているとアプリでわかれば、クーラーを遠隔制御して温度を下げるなどの対応策をとることも可能。この双方向性と、自前でセンサーとゲートウェイを設置して通信網を構築できる自由さが支持されているという。

センサーは冷蔵・冷凍庫の中に置くだけ

 肝心の装置でも、LoRaWANの強みが発揮されている。菱洋エレクトロが取り扱う装置は、LoRaWANに強みを持つ台湾の機器メーカー、Kiwiテクノロジー社のものだ。2018年に業務提携を締結し、日本国内の販売総代理店となった。温度センサーに限らず、様々な機能のセンサーとゲートウェイを扱う、LoRaWAN対応では世界的な老舗企業だ。

 そのセンサーの中でも、食品スーパーに支持されているのが冷蔵・冷凍庫用の温度センサー「LAS−603」。名刺サイズ程度の白い直方体で、測定レンジはマイナス30度からプラス70度まで。最大のウリは使い勝手の良さだ。温度を測定したい庫内に入れるだけで設置工事は不要。あとはLoRaWANの電波が庫内のドアのゴムパッキンの隙間から外に出て、それをゲートウェイがキャッチする仕組みだ(図2)。

 ちなみに近・中距離型の電波を使ったセンサーの場合は、電波が直線で突き進むため、庫内から外に出られない。そのためセンサーと温度計を配線で繋ぎ、温度計のみを中に入れてセンサー本体は庫外に設置するケースが多い。「だがこれだとドアの開閉時に配線が絡まるなどのトラブルが指摘されていた」(出野リーダー)。Kiwi社の製品であればその心配がないというわけだ。

 菱洋エレクトロでは、室内用の温度・湿度の他に一酸化炭素やPM2.5、二酸化炭素などを測定できるもの、前述の冷蔵・冷凍庫用センサーよりもさらに過酷な環境での測定を可能にしたケーブル付きセンサー(測定レンジ マイナス60度−プラス200度)も取り扱っている。18年の発売以降、これらセンサーの導入台数は2万台を突破。大手スーパーを筆頭に、食品スーパーや工場、養鶏場などでも引き合いがあるという。さらに食品スーパーでは、店舗以外にもプロセスセンターと店舗間を走るトラックの庫内温度管理でも活躍。庫内温度を本部がリアルタイムで把握し、もし異変があれば運転手に連絡して問題を解決、ロスを未然に防ぐことができるというわけだ。

 温度管理以外にも、Kiwi社は様々な機能のセンサーを開発している。例えばゴミ箱内の量を超音波でミリ単位でチェックしたり、トイレのドアの開閉から使用状況を確認したりすることで、掃除作業の効率化を図ることができるなど。菱洋エレクトロではこれらのセンサー技術を生かし、小売業の革新を支援していきたい考えだ。

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