アメリカの大手アパレル企業ギャップ(GAP)が、2025年のサイバーマンデーに合わせてAIを活用した新たな購買体験を導入した。オンラインショッピングの利便性向上を目的に、商品発見、サイズ提案、ブランド横断のシームレスな買い物まで、多岐にわたる機能を一気に実装する。
AIが“摩擦のない購買体験”を実現
ギャップはホリデー商戦向けに、グループ各ブランド──オールドネイビー、ギャップ、バナナ・リパブリック、アスレタ──のECサイトにAI機能を導入した。オンラインでも店舗でも、AIが「摩擦を取り除き、創造性を刺激する」ことを掲げ、従来の購買体験とは異なる“気付き”の提供を目指す。
今回のAI導入により、顧客が得られるメリットは大きく四つに分けられる。
1)トレンドを即座に把握する「AIキュレーション」
第一は、トレンドを自動で抽出するAIキュレーション機能だ。ギャップの「秋のトレンド編集」やバナナ・リパブリックの「秋の必須アイテム」が代表例で、流行の色やアイテム、着こなしを、AIが消費者ニーズやトレンドの移り変わりをいち早く分析し、特集ページとして可視化する。
従来の「スタッフの手作業による特集」と異なり、AIが膨大なデータから抽出した“いま人気の兆しがある組み合わせ”を提示するため、更新頻度が高く、鮮度のある提案が可能になる。顧客は漠然とサイトを回遊するのではなく、最初から目的を持ってショッピングを進められる。
2)より“気の利いた”商品提案
第二は、レコメンデーション機能の高度化である。AIが商品を「一緒に買われやすい組み合わせ」「閲覧履歴の傾向」「過去の購入行動」など多面的に分析し、
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といった提案を生成する。これにより、単品購入ではなく“全身コーディネート”まで含めた買い物を促すため、ECサイト上での体験がより完結しやすくなる。アパレルECの課題であった「組み合わせの不安」を解消する効果も大きい。
3)AIチャットによるカスタマーケアが24時間対応
第三は、カスタマーサポートのAI化である。ブランドサイトおよびアプリに搭載された「チャット・ウィズ・アス」では、返品、支払い、注文追跡などの主要な問い合わせをAIが処理し、24時間対応を実現する。
これまで人手に頼っていた定型業務を自動化できるため、応対の待ち時間が短縮され、顧客満足度の改善が期待される。顧客はPC、スマホ、タブレットなどデバイスを問わず利用できる。
4)「インテリジェント・フィット」がデニムの最適サイズを提案
第四は、ECの最大の課題である“サイズ不安”の解消だ。ギャップとバナナ・リパブリックのデニムボトムス向けに導入された「インテリジェント・フィット」では、身体の主要寸法を入力すると、AIが最適なサイズを提案する。返品率削減、満足度向上、環境負荷削減など複数の効果が期待できる。
顧客は新興AIショッピングプラットフォーム「デイドリーミング」上でもギャップグループの商品を見つけることができる。好みのスタイルをAIが診断し、そのままギャップのブランドサイトへ遷移して購入できる仕組みだ。同社は、外部のAIエコシステムとの連携も積極的に進めている。
バックエンドでは生成AIが商品開発プロセスを刷新
今回のAI導入は、いわゆる「顧客接点」だけにとどまらない。裏側では、商品が企画される“前段階”のプロセスまでAIが入り込み、ギャップのオペレーション変革が進んでいる。
従来、アイデア→スケッチ→画像生成→サンプル制作と進んでいたフローは、生成AIにより短縮された。デザイナーは少数の指示でスケッチから実際の商品写真のような画像を生成でき、企画会議やマーケティングでの検討が迅速化する。そしてギャップ社内では、ストーリーテリング(商品コンセプトの説明)や計画立案、デザイン検証など、従業員がAIツールを当たり前のように使う文化づくりが進んでいる。
これらの機能は、グーグル・クラウドなどのパートナーと構築した統合AI基盤上で動く。
柔軟な基盤により、デザイン、販売、顧客体験の各領域で「試す→学ぶ→アイディアを広げる」というサイクルが高速化した。


















