在庫の回転率は2.5回転から3.1回転へ改善
ファーストリテイリングは11月13日、今年で4回目となる、サステナビリティ方針説明会を開催した。
今回の説明会では、同社が推進するサステナビリティ活動の進捗のほか、2017年8月期よりスタートした「有明プロジェクト」の成果を発表した。
有明プロジェクトは柳井正会長兼社長肝入りの事業計画だ。今のSPA型モデルから「無駄なものを作らない、運ばない、売らない」をテーマに、情報小売りへの事業転換を推し進めている。
実際の有明の倉庫(オフィス)では、アプリ内や店頭で得たお客の声を生かし、その情報を元に商品化。 必要な商品を必要なタイミングで必要な分だけ生産し、必要な場所に運び販売するサプライチェーンの実現を目指している。
プロジェクト立ち上げ以降のユニクロ事業は、売上規模が約70%成長、営業利益が5.5ポイント上昇。加えて、販売する商品の品番数も17年8月期と比較すると約50品番以上と3倍以上に拡大している。「これはお客様が本当に求める商品の開発を進めてきたことで、事業の柱となる商品が拡大したこと。そして不要な品番数を減らしてお客様が本当に必要としている商品を中心に商売していくということができつつあるため」(田中大グループ執行役員)(写真左から2番目)。
また、数量計画の精緻化やサプライチェーンにおけるリードタイムの短縮など、物流と一体となった店舗運営の効率化も推進。シーズンの切り替えがスムーズになった結果、「在庫の回転率は2.5回転から3.1回転へ改善し、値引き率も大きく改善。売れ残り数量も大幅に減少した」と説明した。
カシミヤ製品の供給元は100%特定
原料調達については、サステナブル素材の「自社基準」を策定すると発表した。
これまで原料調達基準は、業界データベースを参照しており、重要素材は個別目標を設定するものの環境指標の定量基準までは設けていなかった。
新定義では外部の環境負荷測定データなどを取り入れ、素材ごとに定量目標を設定するほか、「生物多様性」や「動物愛護」など定性的な項目も基準に加える。まずは2025年8月期中に「綿」で新基準を策定し、来期から適用する計画だ。
同社のサステナブルへの取り組みは2017年より本格的にスタート。同年策定した「サステナビリティポリシー」に基づき、原材料の調達から生産、販売、商品の使用、 廃棄までにわたり、サプライチェーンの透明性を高めるための方針を開示している。本説明会では、前期末時点でカシミヤは100%商品の製作に関わるサプライヤーが特定できていることを発表。今後は全素材に拡大していく方針を明らかにした。
アパレル産業は今、環境に配慮した事業転換が求められている。特にファストリを始め大手SPA企業は、大量生産や大量消費、大量廃棄により、製造にかかる資源やエネルギー使用の増加が多いことから、その解消が国際課題の一つとなっている。
欧州連合(EU)では今年1月、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)の適用を開始。一部の企業に環境保護や人権デューデリジェンスなどに関する情報開示を義務付けるなど、対応を強化している。
こうした法規制に対し、ファストリは「そもそも廃棄する前提で服を作っていない」と強調。「 どちらかというと自分たちの考え方(ビジネスモデル)に時代がマッチングしてきたみたいなイメージ」。規制は同社が目指すビジョン「事業成長と持続可能性の両立」がより波及されるとし、「むしろビジネスチャンスだと捉えている」と自信を見せた。
柳井康治取締役グループ上席執行役員(写真左)は、「(こうしたサステナビリティの取り組みが)お客様に適切に伝えられているかと言えばまだまだ」と指摘。ただ「本当に世の中の役に立つことはどんどん広がっていくと思う。今はお客様自身が情報を拾って広げてくださる時代。(SNSから火が付きヒット商品となった)『ラウンドミニショルダーバッグ』が良い例。我々はやるべきことを誠実に粛々と続けていく」と力を込めた。
ファーストリテイリングの2024年8月期決算は、売上収益が3兆1038億円(前期比12.2% 増)、営業利益が5009億円(31.4%増)。収益柱の多様化がさらに加速し、グローバル全体で稼げる体制が確立。売上収益は初の3兆円、営業利益は5000億円台に入った。世界のアパレル企業の売上高では、1位が「ZARA」(24年1月期:約5兆8000億円)、2位が「H&M」(23年11月期:約3兆3000億円)。今期でどこまで2位のH&Mに近づけるか、事業成長と持続可能性の両立を目指し、ファストリの挑戦は続く。