アメリカの大手スーパーマーケットチェーン、クローガーと北米最大級の食料品テクノロジー企業インスタカートは、AI技術を中核に据えた新たな提携拡大を発表した。
インスタカートは、クローガー公式サイトおよびモバイルアプリでの買い物の主要配送パートナーとして、全米20を超えるブランド傘下の約2700店舗からの配送を担っている。
両社は長年にわたり配送やデジタルショッピング分野で協力関係を築き、「エクスプレスデリバリー」やAIを活用した在庫管理などで成果を上げてきたが、今回の拡大提携により、顧客体験の簡素化と効率化を進めるとともに、AIによる新しい「エージェンティック・ショッピング」も導入する。また、CPG(消費財)を取り扱う企業が顧客に直接アプローチできるリテールメディア施策も新たに展開する予定だ。
クローガーは、eコマースとリアル店舗の垣根を越えた顧客接点を強化しており、今回の提携はその基盤をさらに盤石なものとする。両社が協力して構築するAI主導の配送・注文システムは、より高い精度で需要を予測し、顧客の利便性を向上させるものとなる。
AIアシスタントを導入する意義
今回の提携拡大で最も注目すべき点は、AIアシスタント「カート・アシスタント」の導入だ。これはインスタカートが開発した対話型AI機能で、クローガーのiOSアプリ上に統合される。
この機能は、顧客が「何を食べたいか」「今ある食材で何が作れるか」を自然言語で相談すると、AIがレシピを提案し、必要な食材を自動で買い物かごに追加するというもの。さらに、過去の購入履歴や好みに基づいて、最適な商品をレコメンドする仕組みも備える。
クローガーのヤエル・コセット上級副社長(最高デジタル責任者)は、「AIエージェントとの対話によって、買い物や献立づくりがまるで会話のように進む。顧客の好みを深く理解し、最も大切なことに焦点を当てる買い物体験を実現できる。この取り組みは、家族の食卓をより楽しく、時間とコストの節約にもつながるだろう」と語る。
クローガーはAIを単なる効率化ツールとしてではなく、「顧客の食生活に寄り添うパートナー」として位置づけようとしている。
配送スピードと品質を同時に向上
オーダー処理の品質向上とスピードアップにもAIを活用する。両社のデータ連携により、注文内容の正確性が向上し、欠品や誤配送を減らすとともに、店舗からの出荷効率も改善されている。
特にエクスプレスデリバリー(最短30分配送)の拡大は、米国の食料品業界でも注目を集めている。忙しい家庭や高齢者など、時間制約のある顧客にとって利便性が格段に高まると同時に、クローガーにとっては新規顧客の獲得チャネルとして機能している。
インスタカートのクリス・ロジャースCEOは、「10年以上にわたり、我々は食料品業界のためにエンタープライズ級のテクノロジーを構築してきた。クローガーはその最も重要なパートナーの一つであり、AIを活用した次世代型ショッピングの実現を共に推進できることを誇りに思う」と語っている。
クローガーとインスタカートの協業は2017年に始まり、全米規模の配送サービス、燃料ポイント統合、AI搭載スマートカート「ケイパー・カート」など、数々の業界初の取り組みを生み出してきた。
今回の提携は、単なる配送効率化の枠を超え、リテールメディアとAIによるパーソナライズ戦略を強化する段階へと進化したといえる。
クローガーは現在、ZeroHungerZeroWaste(飢餓ゼロ・廃棄ゼロ)の社会貢献活動を掲げ、サステナブルな食のエコシステム構築にも力を入れている。一方のインスタカートも「インスタカート・ヘルス」を通じて、栄養格差の是正や健康的な食習慣の促進に取り組んでおり、両社の方向性は一致している。
AIを活用した献立提案や健康管理、食品ロス削減までを一気通貫で支援するプラットフォームが実現すれば、業界全体に大きな影響を与える可能性がある。















