食品などの包装機械で世界トップクラスのシェアを誇る独ムルチバック社の日本法人であるムルチバック・ジャパン。前身の東京食品機械の時代から50年以上にわたり包装・加工機械の販売を手がける老舗企業だ。そんな同社が、新たな開発拠点「イノベーションセンター」を構えた。新拠点では、取引先を交えたデモ機によるテストやサンプル作成を積極的に実施。強みの価値提案を一層深化させている。
最先端技術をまとめて体験できる
茨城県つくば市の中心部から車で約20分。県道19号沿いのムルチバック・ジャパン本社工場(冒頭写真)内にイノベーションセンターはある。
同施設はいわばソリューション提案型のショールームだ。食品を中心に、医療機器、工業製品など、幅広い品目の包装や資材の困りごとに対応。テスト、ワークショップ、セミナーなどを通じ、顧客ごとに最適な解決策や支援体制の提供を行っている。

同社が新拠点を構えた理由は、多様化する顧客ニーズへの対応速度・精度を高めるためだ。イノベーションセンターを取り仕切る吉永昌司部長は次のように語る。
「従来もお客様のご相談を受け、工場などでテストを行うことはありましたが、そのすべてにセールスマンが個別で対応していました。これは負担が大きい上、お客様の専門的なご要望に対応しきれないという問題もありました」
そこで昨年、新たに専門部署を発足。吉永部長をヘッドとして、包装機械・包装資材・加工機械それぞれのエキスパートからなるプロ集団を組成した。併せて今年、工場内の一部をリノベーション。施設としての間口を整えることで、いよいよ「イノベーションセンター」の機能を内外に訴求しながら、稼働を本格化させている。
イノベーションセンターには顧客の要望を実現するための充実の設備がある。その筆頭が「包装開発室」だ。深絞り包装機やトレーシーラー、チャンバー包装機など、ムルチバック社の主力機を一堂に取り揃えるほか、フィルムなどの包装資材も豊富に用意。様々なパターンを試しながら商品ごとに最もフィットした包装形態を探ることができる。
中でもムルチバック・ジャパンの強みといえるのが食品の鮮度保持につながる提案だ。フィルムの選定を工夫したり、工程にガス置換(MAP)や真空引きなどの処理を組み込むことでロングライフ化を実現。例えば、あるすり身メーカーとの取り組みでは、窒素ガスを充填しつつ、ラップがけのような盛り上がりを作り見栄えをよくした「ボリュームMAP」が採用されるなど、きめ細かな対応が支持されている。
深絞り包装機に必要な金型の製造機を自社所有している点も同業他社との差別ポイントだ。深絞り包装は底材とふた材の2種類のフィルムを用い、商品にあわせてカスタマイズされた金型で底材を成型し、ふた材で密閉することで商品を包む技術だ。イノベーションセンターは、これまでに蓄積した多彩なテスト金型を備えており、商品の包装イメージを具体的な形でスピーディーに提示できるのが最大の強みだ。

またセンター内には、食品の製造・加工機械を紹介する「加工機械室」もある。自社製品のほか提携欧州メーカー製品も常設。ざっと挙げるだけでも、肉や魚を同じ形・重さでカットするポーションカッター、ペースト状の食品を自動で充填し成形する真空定量充填機、生地を均一に混ぜ合わせるカッターミキサー、肉や魚に調味液を注入するインジェクターなどがずらりと並んでおり、どれも実際に試すことができる。

そのほかセンター内には、製パンに関するソリューションを一体提案する専門区画「ワールド・オブ・ベーカリー」、複数のマシンで組んだラインソリューションや新型機器などの目玉展示を置く「ショールーム」もあり、まさに包装や食品加工の最先端技術をまとめて体験できる場となっている。
メーカーのみならず小売りからの引き合いも増加
ムルチバック・ジャパンの取引先は多岐にわたり、特に食品では肉類を筆頭に、水産加工品、日配品、冷凍食品、惣菜、菓子、パンなど、多様なメーカーと取り組む。近頃はメーカーが商品形態や外装をより重視するようになっていることから、包材の選定のみならず、商品開発に一から伴走するケースも増えているという。
マーケティング課の和田奈未子課長によれば、「ムルチバックはグローバル展開しており、各国の先進的な取り組みをリアルタイムで共有しています。各部門で海外のチームに相談することも日常です」と言い、「ムルチバック・ジャパンの経験・知見だけでなく、海外の最新事例も参考にして頂けます」と自信を語る。
さらに足元では、食品スーパーなど小売りからの引き合いも増加傾向にある。「人手不足の深刻化やコスト意識・環境意識の高まりを背景に、MAPやスキンパックによるシェルフライフ延長、フードロス削減を志向する動きが拡大しています」(吉永部長)。スキンパックはすでに大手スーパーの精肉パックで採用が拡大中。かつてスキンパックは肉が黒ずんで見えることから忌避される向きもあったが、「この色はむしろ酸化していない証拠。空気に触れることで赤く発色する」という正しい認識が消費者にも広がりつつある。先日ムルチバック・ジャパンが行った、プロセスセンター設置を検討中のスーパーに向けたセミナーも盛況とのことで、同社としても引き続き提案を強める意向だ。
「とにかく困ったら何でも相談してほしい。悩んでいる間にも実際に試したり、一緒にお話しする中で解決できることがあるかもしれません」(吉永部長)。ムルチバック・ジャパンはイノベーションセンターの活用を通じ、包装や食品加工のソリューション提案に一段と磨きをかけていく。



















