シカモア・パートナーズは8月28日、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(WBA)の買収完了を発表した。3月に公表した最終契約の条件を踏襲し、非公開化のもとで再建と事業最適化を一段と加速させる狙いである。完了に伴い、WBAの普通株は取引を停止し、ナスダック上場は廃止となった。
240億ドル弱の取引で非上場化
本件は最大237億ドル規模の取引として位置づけられ、既存株主はWBA株1株当たり11.45ドルの現金に加え、将来のビレッジMD関連資産のマネタイズ(換金)に応じて最大3.00ドルの追加価値を受け取る権利を得る構造であった。
今回のクロージングでもこの枠組みは維持され、ビレッジ・メディカル、サミット・ヘルス、シティMDを含むビレッジMDに対するWBAの債権・持分の処分収入が、追加対価の帰趨を左右する設計である。言い換えれば、確定対価に「成果連動」が上乗せされる二段階の株主還元である。
ガバナンス面では、ステファノ・ペッシーナ氏とその家族がWBAへの持分を100%再投資し、引き続き支援とコミットメントを示した点が象徴的である。3月時点で同氏は受領資金の再投資意向を明らかにしていたが、クロージングでは実際の再投資として結実した。これにより、スポンサーの小売・消費財分野の再生知見と、WBAグループの医療・薬局オペレーションの現場力を掛け合わせる体制が固まったといえる。
自立した私企業体制に移行
事業体制は大きく変わる。ウォルグリーン、ザ・ブーツ・グループ、シールズ・ヘルス・ソリューションズ、ケアセントリックス、ビレッジMDは、それぞれ独立した「スタンドアローン企業」として運営される。四半期ごとの市場対応から解放されることで、店舗網の再編、仕入・在庫の最適化、既存店の生産性改善、ヘルスケア連携の再設計といった実務寄りの打ち手を、プライベート・オーナーシップの迅速性で進めやすくなる。ドラッグストアと一次・外来医療、在宅ケア、スペシャリティ薬局支援といった異なる収益モデルを、個社最適で磨き込むフェーズに入るわけだ。
財務・資本政策の観点では、非公開化によりキャッシュフロー重視のKPI運用や、店舗・資産ポートフォリオのスクラップ&ビルドが実務的に進めやすくなる。他方で、追加対価の原資となるビレッジMDのマネタイズは市場環境と個別交渉に左右されるため、株主が最大3.00ドルを満額受け取れるかは不確実性を伴う。3月の記事でも指摘した通り、ビレッジMDの取り扱いは本件の成否を測る重要な注目点であり続ける。
経営メッセージも一貫している。シカモアのステファン・カルズニー氏は、地域社会に根差したブランドの価値を尊重しつつ、顧客体験の強化と信頼関係の深化を掲げる。ペッシーナ氏も、ウォルグリーンとブーツ・グループを中心とする各事業の「新章」開始を強調し、長期的視点での再成長に自信を示す。3月時点でウォルグリーンのティム・ウェントワースCEOが述べた「非公開企業として変革を進めるのが最適」という判断は、今回のクロージングをもって実行段階に入った。
短期的には店舗・コスト構造の見直しと資産の選択と集中、中期的には薬局・一次医療・在宅ケアの垂直連携の再設計が焦点となる。今後は、スタンドアローン化した各社の収益性改善のトラックレコードと、ビレッジMD関連資産のマネタイズ進捗が、投資家・取引先・患者/顧客の評価を左右するだろう。