米ウーバー・テクノロジーズは7月16日、独デリバリーヒーローの買収を目的とする自主的公開買い付け(TOB)を実施すると発表した。両社は企業結合契約を締結済みで、買い付け価格は1株当たり41.50ユーロの現金。デリバリーヒーローの全株式を対象とした場合の株式価値は148億ドルとなり、ウーバーがすでに取得している持ち分を調整した実質的な取得額は137億ドルとなる。取引が完了すれば、移動サービスと配達サービスを合わせた同社の事業展開先は合計99市場に広がり、2025年の予想合算流通総額(グロス・ブッキングス)は2360億ドルに達する。
デリバリーヒーローは11年に食品配達サービスとして創業し、ベルリンに本社を置く。アジア、欧州、中南米、中東、アフリカの約65カ国で事業を展開し、17年からフランクフルト証券取引所に上場、中型株指数MDAXの構成銘柄でもある。近年は生鮮食品や日用品を1時間以内、多くは20〜30分で届ける「クイックコマース」の先駆けとしても知られる。
今回の取引では、デリバリーヒーローの事業が二つに分けられる点が特徴だ。ウーバーが取得するのは50市場の事業で、25年の流通総額は420億ドル。韓国の「配達の民族(ペダルミンジョク)」、サウジアラビアの「ハンガーステーション」、中東8カ国の「タラバット」、シンガポールや香港など10市場の「フードパンダ」、イタリアやウクライナ、ナイジェリアなど17市場の「グローボ」、中南米13市場の「ペディドスヤ」、ハンガリーの「フードーラ」が含まれる。
一方、ウーバー・イーツとデリバリーヒーローの事業が重複する市場を中心とする14市場の事業は、ウーバーによるTOBの完了などを条件に、米ニューヨークの投資会社SSWパートナーズが約16億ドルで取得する。対象は、オーストリア、チェコ、ノルウェー、スウェーデンの「フードーラ」、ギリシャの「イーフード」、キプロスの「フーディ」、ポーランド、ポルトガル、スペインなど5市場の「グローボ」、チリとエクアドルの「ペディドスヤ」、トルコの「イェメクセペティ」で、25年の流通総額は110億ドルだ。ウーバーはSSWに移管される事業の支配権を取得せず、SSWが独自に長期的な提携先を探す。市場の重複を事前に整理し、競争当局の審査に備える構図といえる。
デリバリーヒーローの取締役会と監査役会は、いずれも今回のTOBを全会一致で支持し、買い付け説明書を精査した上で株主に応募を推奨する意向を示している。また、約17%を保有する筆頭株主の一つである南アフリカ系投資会社プロサスは、保有株の全量応募を撤回不能な形で確約した。ウーバーは発表前の時点で議決権ベースの株式24.77%を直接保有し、株式派生商品を通じて約11.74%の経済的持ち分を持っており、プロサス分を加えると経済的持ち分は約53%に達する見込みだ。
独本社は29年まで維持、ドイツに20億ユーロ投資
ウーバーはTOBの資金を手元資金と新規の負債調達で賄う。約140億ユーロのコミットメント付きブリッジ・ファシリティ(つなぎ融資枠)を締結済みで、総有利子負債倍率(グロス・レバレッジ)を2倍未満に抑え、投資適格級の格付けを維持する構造とした。自社株買いを含む従来の資本配分方針は変更しない。TOBの成立には発行済株式の50%超(ウーバー保有分を含む)の応募と、各国の企業結合審査・金融規制当局の承認が必要で、取引完了は27年後半を見込む。買い付け説明書は独金融監督庁(BaFin)の承認を経て公表され、その時点から応募期間が始まる。
雇用面では、ウーバーはデリバリーヒーローが従業員に対して行ってきた約束を尊重するとし、ベルリン本社を維持し、少なくとも29年まで同地の従業員体制に変更を加えないと表明した。さらに今後5年間でドイツに20億ユーロを投資し、現地の従業員の育成、全国規模の事業拡大、自動運転車の展開とドイツ自動車産業との提携に充てる。加えて、支配・利益移転契約(DPLTA)を3年間締結しないことも約束した。ドイツ企業を買収する米国企業として、雇用と本社機能の維持を明示した形である。
買収の狙いについて、ウーバーは移動と配達の両サービスを提供する市場が34から58へとほぼ倍増する点を挙げる。同社の既存市場では、複数サービスを利用する顧客は単一サービスの利用者に比べて流通総額と利益がおよそ3倍になっており、この横断的な利用促進の対象範囲が大きく広がるとする。取引は完了時点で非GAAPベースの1株当たり利益に上積み効果をもたらし、3年目には高い1桁台の比率で押し上げるとの見通しを示した。
ウーバーのダラ・コスロシャヒCEOは「デリバリーヒーローは世界で最も成長の速い配達市場の多くで、地域に根ざした支持の厚いブランドと有力な地位を築いてきた。両社の基盤を統合することで、世界で最も活力ある経済圏の数百万人以上に、手頃で信頼できる配達を届けられる」と述べた。デリバリーヒーローのニクラス・オストベリCEOは「ウーバーの世界的な移動・配達の基盤と革新への共通の姿勢が、当社の食品配達とクイックコマースの強みを伸ばす上で適切な組み合わせだ」とコメント。監査役会のクリスティン・スコーゲン・ルンド議長は「食品配達は競争が激しく、規模に左右される事業だ。欧州を基盤に築き上げるのは容易ではない。今、強力な相手と力を合わせることが、将来の競争力を確保する上で正しい判断だ」と述べている。
なお、報道によれば、買い付け価格はデリバリーヒーロー株の直近3カ月の出来高加重平均株価に対して約34%の上乗せとなる一方、発表前日の終値に対しては9%程度、買収観測が出る前のいわゆる「無風時」の株価に対しては約40%の水準にあたる(ロイター)。発表当日、デリバリーヒーロー株はほぼ横ばいから小幅高にとどまり、ウーバー株は1〜2%程度上昇した。
世界的再編の最終段階か
今回の取引は、食品配達業界の再編がいよいよ最終段階に入りつつあることを示している。コロナ禍の急拡大が一巡して注文の伸びが鈍化し、人件費や金利の上昇、ギグワーカーの処遇をめぐる規制強化が重なる中で、収益性を確保するには規模の確保が不可欠になった。過去数年、ウーバーによるポストメイツ買収、ドアダッシュによるウォルトとデリバルーの買収、ジャストイートとテイクアウェイ・ドットコムの統合、デリバリーヒーロー自身によるグローボやフードパンダの取り込みと、大型再編が相次いできた経緯がある(ロイター報道による整理)。今回の買収が成立すれば、世界規模の担い手はウーバーとドアダッシュの二極に集約されることになる。
もっとも、成立までの道のりは短くない。取引完了の想定が27年後半とされている点について、ジェフリーズのアナリストは「長く遅い行進」になるとの見方を示したと報じられており、発表当日にデリバリーヒーロー株が買い付け価格を下回って推移したのも、規制審査の長期化を織り込んだ動きとみられる。各国の競争当局がどう判断するかが注目される。



















