企業を取り巻く環境が複雑化し、広報に求められる役割も変わりつつある。商品やサービスを世の中に知らせるだけでなく、顧客や社員、取引先、投資家など多様なステークホルダーと関係を築き、その声を経営に還元する。そんな「経営機能」としての広報のあり方を考える特別連続セミナーを、社会構想大学院大学が10月20日からスタートした。

 同大学は2027年4月、現在の「コミュニケーションデザイン研究科」を「広報コミュニケーション研究科」に名称変更する。今回のセミナーはこれを記念したもので、テーマは「経営機能としての広報コミュニケーション」。企業の経営層や広報、ブランドマネジメントなどの領域で活躍する実務家を招き、企業経営や組織変革、ブランド戦略の実例から経営と広報の関係を探る。

 第1回の「広報コミュニケーションの現在地~経営機能としての広報を概観する」では、資生堂で広報部長や「花椿」編集長、エバラ食品工業で執行役員コミュニケーション本部長などを歴任した上岡典彦氏(冒頭写真)が登壇した。同氏は社会構想大学院大学で教授を務めており、本連続セミナーの企画立てにも携わっている。

 上岡氏がまず示したのは、「経営機能としての広報」に対する期待と現実のギャップだ。講演では、日本広報学会が23年に広報を、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションを通じて社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能と定義したことを紹介。その一方、経営者が広報に期待する役割と、広報の現状には隔たりがあると指摘した。サイバーセキュリティーやBCP、人的資本経営など企業が抱える課題が広がる中、広報にも「経営課題を解決する」役割が求められるとの考えを示した。

 上岡氏は本連続セミナーで、経営戦略と直結し、組織の持続的成長を支える中核機能としての広報のあり方について探っていくとし、そのイントロダクションとして自身の経験から培った広報観を語った。資生堂第10代社長・福原義春氏とのエピソードを交え、その時々で経営者が重視するテーマを広報がしっかりとつかむ必要性を強調。同時に、広報パーソンの基本の仕事を「読む・書く・編む」の三つに整理した。「読む」は社会の潮流や社内の空気、トップの考えを捉えること。「書く」はそれを言葉にして伝えること。そして「編む」は事業や商品、トップと社員、社内外のネットワークをつなぐことだと上岡氏は説明。広報とは「物語を紡ぎ、その物語で何かと何か、何かと誰か、誰かと誰かをつないでいく仕事」とする上岡氏の広報観が、第1回を貫いた。

 第2回以降は、第一線で活躍する実務家たちによる実践編へと踏み込む。10月30日には高場経営広報舎代表の高場正能氏が「広報の『守・破・離』」を語る。11月6日には第一ライフグループ執行役員の坂本香織氏が同社のブランド変更の事例から「経営におけるコミュニケーションの役割」を、同17日は三菱UFJフィナンシャル・グループ経営企画部長の飾森亜樹子氏が「パーパスに基づく企業変革とブランディング」を取り上げる。12月にはスープストックトーキョー社長の工藤萌氏、LINEヤフー執行役員の伊東由理氏が登壇し、年明け27年にはコーセー取締役の原谷美典氏、いすゞ自動車広報部長の相川貴之氏などの登壇も予定する。

 異なる企業、異なる立場の実務家の経験を重ね合わせることで、経営に資する広報の姿を浮かび上がらせる。情報を「伝える」だけの広報から、経営と社会、社員をつなぎ、企業の持続的成長に関与する広報へ。全10回ほどの議論を通じ、その具体像を探っていく。